内容説明
多摩川べりのありふれた町の学習塾は“キタナラ塾”の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に「犬男」の太郎さんが押しかけてきて奇妙な二人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の二編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
239
第108回芥川賞受賞作。「ペルソナ」を併録。こちらも、よくできた作品だとは思うが、表題に現れているように「ペルソナ」のアイディアが小説の構造そのものを決定している感があり、硬さが否めない。一方表題作の「犬婿入り」は、うんと柔軟な造りになっている。飯沼太郎のわけのわからなさも痛快だ。しかも、荒唐無稽で一種寓話的な世界でありながら、それが独自の小説空間として見事に自立している。可能性でいえば、芥川賞作家の中でも、あるいは10年に1人の逸材かと思う。多和田葉子は初読だったが、今後も注目して行きたい作家の一人だ。2013/06/18
遥かなる想い
218
第108回(平成4年度下半期) 芥川賞受賞。 キタムラ塾の北村先生を めぐる母親たちの噂話が 面白い。「犬婿入り」という 民話を題材にしたのだろうか …北村ミツ、飯沼太郎の 不可思議な存在感が抜群で 奇妙な世界に引きずり込まれる。 何が何だがわからないまま、 著者の描く不思議な世界を 楽しむ…そんな物語だった。2014/09/15
pino
145
表題作。一息に綴られた文章は犬に尻をべろんと舐められた様で(舐められたことは無いが)たじろぐ。塾を経営する、みつこが子供たちに話した<犬婿入り>という民話もやけに艶めかしい。子供たちは鼻くそ手帳を面白がったり、みつこの乳を見せろとせがんだり。民話も子供もそうしたものだと納得しそうになり、おののく。みつこの元にやって来た「太郎」はいかにも犬だし家事もこなす。後の展開も何とも奇妙。とんでもない所へ連れてこられた様で可笑しいやら恐ろしいやら。困るので一度でヤメておいたが「電報」が気になり結局、何度も読み返す。2021/01/20
hit4papa
122
家庭教師を営む女性が、生徒に繰り返し聞かせたのは、尻を舐める犬の寓話。ある日、彼女の前に現れた男はお話しの通り尻を舐める癖を持っていた、というタイトル作。マジックリアリズムととらえたら良いのでしょうか。ひたすら長ったらしい饒舌文章を読みと、何故か笑えてくるのでツボにハマりました。物語は突拍子もない結末を迎えるのですが、ざっくりと言うと変なお話しです。他収録の「ペルソナ」はドイツに暮らす姉弟の日々を描いています。異邦人の孤独とかアイデンティティとかなのでしょうが、鬱勃としているだけでつまりません。【芥川賞】2018/07/21
absinthe
118
面白かった。とにかく良く判らない小説で、男と女の関係もただの住み込みのようにも愛人のようにも夫婦のようにも見える。外部からはもっと良く判らない。あの男は人なのか犬なのかも分からない。量子力学的に、設定の異なる世界が確率的に重畳しているような不思議な感覚。それでいて全く読みにくくない。文章は、句読点までがやたらと長いけど。表題作とは別の『ペルソナ』も、姉と弟だとは書いてあるけど友人?ただの同居人?のような異なる雰囲気が重なっている。2024/09/04