内容説明
時刻ヨーシ、方向切替ヨーシ、発車。電車はスピードを急速に上げ、間もなく軌道が緩やかに下り始め、徐々に傾斜がきつくなっていく。傾斜角千分の三十五。都市と都市生活者の様々な貌をトンネルの闇と駅の輝きが妖しく繋ぐ。カミソリのように光る二本のレールの上に現代を官能的に描く。第107回芥川賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
159
第107回(平成4年度上半期) 芥川賞受賞。 地下鉄の運転士を描く。 電車の運転への拘りは、 運転席近くの席が好きだった昔を思い出す。 レーンに沿って、規律ある運転をする運転士、 そして旅行鞄の女性は何を意味するのだろうか。 ひたすら運転士の独白で話は進む、無機質で 不可思議な「運転士」の世界だった。 2014/09/23
やっさん
154
★★ 難解なお話。公私に関わらず、目に見える全てのものを無機質的に捉え、そこに安心感を得る主人公。この病的な感覚は、四半世紀後に同じく芥川賞を受賞する「コンビニ人間」と重なる。2018/11/12
kaizen@名古屋de朝活読書会
111
【芥川賞】地下鉄の運転士。描写が詳しく現実味がある。鉄道愛好者にはお勧め。2014/01/28
ヴェネツィア
95
1992年上半期芥川賞受賞作。同時期の候補作には、鷺沢萠「ほんとうの夏」や、多和田葉子「ペルソナ」があがっていたが、選考委員の得点は本編が断然群を抜いていた。視点人物は一貫して主人公の地下鉄の運転士に置かれている。そして小説の中を流れる時間は(それは地下鉄の、あるいは乗車業務のでもあるのだが)は、極めてストイックに進行していく。読者が眼にする光景もまた地下鉄の運転席からのものだ。強いリアリティに支えられた小説といっていいだろう。また、そうであるからこそ物語後半のシュールな状況と光景が説得力を持つのだ。2013/11/06
たぬ
33
☆3.5 芥川賞受賞作を読もうシリーズ。あらゆる面でとてつもなく几帳面そうな、ここまで自分の仕事に誇りを持って働いている人はちょっと珍しいのではと思える地下鉄の運転士が主役。一方向にクソ真面目過ぎるが故の幻覚? 妄想? なのだろうか。養豚場でサバゲ―ならぬ豚ゲーをする併録の「王を撃て」の主人公も変人でなかなか。2022/07/26