内容説明
「のふにひまなく候」。晩年、能に取り憑かれた秀吉は、前代未聞の禁中能を催す。宮中に、秀吉、家康、利家が舞い、輝元の小鼓が響きわたる。自らの生涯を「十番の能」に新作させ、能楽史を変えた権力者の凄まじい熱狂に迫る。
目次
序章 武将の能楽愛好―秀吉まで
第1章 名護屋以前
第2章 文禄二年肥前名護屋
第3章 文禄二年禁中能
第4章 能楽三昧の日々
第5章 豊公能の新作
第6章 秀吉の能楽保護
終章 秀吉以後
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のれん
11
題名通り、安土桃山時代における秀吉の能愛好を研究した一冊。本でここまで論点を絞ったものはあまりない。 能は発祥から武家全体から愛好され、秀吉の時代は武将が劇を演じる素人能を大舞台でやっていたらしい。信長あたりは遠慮していたのに大体出演する秀吉の愛好っぷりと、今も昔も素人スターが流行るのだなぁと諸行無常の気分に。 そして秀吉の後援と保護により、当時における映画のような総合芸術たる能は「保存遺産」となった。新作芸能として詰んだのだ。 一見哀しいがここから生まれる歌舞伎を思うと芸術の栄枯盛衰を感じられる。2020/01/27
パトラッシュ
9
伊東潤の『茶聖』で能に傾倒していく秀吉を描いていたので実情を知りたくて読んだ。自らの事績を新作能に仕立てさせたり、禁中で家康らと共に舞うなどやりたい放題ぶりは狂気すら感じさせる。しかし、当時の秀吉は自分だけで思い立って実行した朝鮮出兵のただ中だったのだ。朝鮮で多くの軍民が戦乱に苦しんでいる最中に、出兵を命じた絶対権力者が最も大切な政治や戦争指導を放り出して「のふにひまなく候」と熱狂しているのを、周囲の誰も制止しないのは独裁者への恐怖か。つくづく秀吉は乱世の奸雄であっても平時の治者ではないと思い知らされる。2020/07/17