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沙漠に日が落ちて―二村定一伝

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  • サイズ B6判/ページ数 268p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784062173919
  • NDC分類 767.8
  • Cコード C0073

出版社内容情報

エロ、グロ、ナンセンスでしか語れぬ真実もある。昭和初期、独特の声で時代を疾駆した蕩児の姿から、戦前文化に存在した可能性を問う 昭和のはじめ、二村定一という歌手にして芸人がいました。当時は飛ぶ鳥を落とす勢いで彼を知らない人はいませんでした。エノケンこと榎本健一を凌駕する人気であったといって過言ではありません。たとえば「君恋し」(♪宵闇迫れば 悩みは果てなし)はフランク永井の昭和30年代の歌謡曲と思ったら大間違い(もっとも、いまジェロが歌っていますが)、もともとは二村定一が昭和4年に歌って大ヒットした歌です。いまでもある世代より上の人々は、彼のレパートリーだった ♪俺は村中で一番、モボだといわれた男(「洒落男」)や♪沙漠に日が落ちて夜となるころ(「アラビアの唄」)などの舶来流行歌を懐かしく思い出すことでしょう。色川武大のエッセイにその風貌がわずかに偲ばれます。
 ただ、二村はこの時代の享楽と頽廃の申し子でありすぎました。その後軍国化する日本で彼の居場所はどんどん狭まり、生活は荒れてやがて舞台から消えてゆきます。
 一時代を築いた芸人や歌手が忘れ去られてゆくのは仕方のない宿命です。しかし、彼は21世紀らしい手段で不死鳥のように甦りました。2007年11月、関西の人気テレビ番組「探偵ナイトスクープ」で、「90歳の祖母が口ずさむ奇妙な歌の正体を知りたい」という依頼が取り上げられました。その正体は昭和7年に二村定一が歌った〈百萬円〉という唄でした。この番組によって〈百萬円〉のエロ・グロ・ナンセンスそのものの歌詞もさることながら、忘却の海に沈んでいた二村定一という歌手が一気に浮上してきたのです。いま、ウェブ上で二村を熱く語る若年層がどれほど多いか、携帯電話の着メロまで作られたという事実を知ったら、オールド・ファンは驚愕することでしょう。
 戦後すっかり定着してしまった観のある戦前=軍靴の響きといういかつい概念。それを本書では揺さぶってやろうと思います。このうえなく軽佻浮薄でエロ歌手の代表格と目された二村定一が、硬直した文化史の読み直しを迫ってくるさまは読者に新しくも根底的な視角を提供するはずです。また、詳細な年譜、ディスコグラフィーも必読です。

  はじめに
 第一章 生まれながらの伊達男
   1 壇ノ浦の天才少年
   2 大阪へ
   3 僕は歌劇で身をたてたいから
 第二章 浅草オペラにあこがれて
   1 コーラスボーイ
   2 震災前後
   3 佐々紅華の敷いたレール
 第三章 ジャズ・エイジの寵児
   1 〈アラビア〉の唄
   2 ジャズシンガーになる
   3 〈君恋し〉の大ヒット
 第四章 エノケンと ベーちゃん
   1 「カジノ・フォーリー」から「プペ・ダンサント」へ
   2 才能全開
   3 無邪気ないゝ人、いゝ人だけど
 第五章 早すぎる死
   1 深まる屈託
   2 流れ流れて
   3 昭和二十三年九月十二日
 むすびに
 年譜
 ディスコグラフィー


毛利 眞人[モウリ マサト]
著・文・その他

内容説明

エロ・グロ・ナンセンスでしか語りえぬ真実もある。昭和の初め、独特の歌唱とパフォーマンスで時代を疾駆した稀代の蕩児の姿を通して浮かび上がる戦前モダニズムの夢。

目次

第1章 生まれながらの洒落男(壇ノ浦の天才少年;大阪へ;僕は歌劇で身をたてたいから)
第2章 浅草オペラにあこがれて(コーラスボーイ;震災前後;佐々紅華の敷いたレール)
第3章 ジャズエイジの寵児(“アラビアの唄”;ジャズシンガーになる;「君恋し」の大ヒット)
第4章 エノケンとべーちゃん(「カジノ・フォーリー」から「プペ・ダンサント」へ;才能全開;無邪気ないゝ人、いゝ人だけど…)
第5章 早すぎる死(深まる屈託;流れ流れて;昭和二十三年九月十二日)

著者等紹介

毛利眞人[モウリマサト]
音楽ライター。1972年、岐阜県郡上八幡生まれ。高校時代より地元紙にコラムを寄稿。大阪芸術大学中退後、中古レコード店勤務を経てライターとなる。戦前昭和のクラシックと軽音楽にたいする造詣は深く、なかでも貴志康一と二村定一の研究では余人の追随を許さない。2001年より10年間、NHK関西発ラジオ深夜便で「懐かしのSP盤コーナー」を担当。そのほか、コロムビア、ビクター、テイチク、キングの4大レーベルからリリースされたCD「ニッポン・モダンタイムス」シリーズの企画・選曲・解説に加わるなど、復刻CDの原盤提供、データ監修を積極的におこなっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

bapaksejahtera

13
本書に引用の色川武大も読んではいたが、纏まった評伝を読むのは初めて。二村の録音も持っているが、美声だが一本調子の歌唱だ。だがそれも素人の評価に過ぎない。我が国に西洋音楽が入り大衆がそれに接するようになって半世紀も立たぬ大正初期の下関。金持ちの二号(琵琶芸者)さんの息子と生まれ、芸者に囲まれて育った少年が、すぐさま流行り始めたジャズを吸収する。米国でさえジャズはまだ生成期で、ボーカルも楽団に負けず声を張り上げる時代が長い。マイクに向けた唱法もレコードと共に早速日本に入った。この時代の大衆歌手を改めて見直す。2025/04/10

gtn

13
大正から昭和初期にかけての大スター二村定一。その彼が、バイタリティの塊エノケンと組んでしまったのが不幸の始まりという色川武大の指摘は正しい。最初は二人座長だったが、徐々にパワーバランスが崩れる。屈託を酒で紛らわす。そして世間から忘れ去られる。その後数年生きたが、忘却された時点で死を迎えたに等しい。2020/01/25

nureyev

2
読み始めは、よくありがちな取材対象への思い入れが強すぎる作品かと思ったが、徐々にその側面が薄れていき内容に引き込まれた やはりリアルタイムで観ていない不利はあるが、労作であることは確か2016/01/02

Awata, Naoki

2
著者曰く日本最初のジャズシンガー 二村定一の評伝。エノケンの相棒だったとか、色川武大のエッセイぐらいしか知識がなかったけれど、これはおもしろい。日本のジャズ、レコード業界の最初期のスターについて、綿密に取材し、愛情をもって記されている。おかげでCDまで買ってしまった。詳細なディスコグラフィー付きで、これだけでも価値がある。2012/07/01

うめけろ

2
登場人物の中では「エノケン」という通り名を聞いたことがあるくらいで二村さんのことはまったく知りませんでした。が!古き良き時代のエンターテインメントの世界で活躍された二村さんの伝記は本当に当時の映像が頭に浮かぶようで、のめり込みました。読後、YouTubeで初めて「アラビヤの唄」や「君恋し」を聞きましたが、これがまた良かったです。2012/06/22

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