内容説明
朝鮮戦争中の九州の兵站基地で、置きざりにされた徴用馬の世話をする青年の苦悩に迫る芥川賞受賞作「深い河」、親戚の恋愛騒動を契機に訪れた、夏の下町の人間模様を描く川端賞受賞作「辻火」、出生地の曖昧さに気づいた初老の男の地番を探す過去への旅を追った「生魄」等、初期から晩年に至る七篇を収録。ストイシズムを底に秘め、気品ある世界を創った「短篇の名手」田久保英夫の魅力溢れる代表作集。
著者等紹介
田久保英夫[タクボヒデオ]
1928年1月25日、東京市浅草区田中町(現・台東区日本堤)に生まれる。1953年3月、慶応義塾大学文学部仏文科を卒業。1969年7月18日、「深い河」により第六一回芥川賞。1970年「郵政」文芸賞の選者となる。1985年4月、「辻火」により川端康成文学賞。この春「三田文学」が復刊することになり、三田文学会の常任理事に就任。10月、芥川賞選考委員に加わる。1986年2月、『海図』により読売文学賞。1997年川端康成文学賞の審査委員に加わる。11月11日、『木霊集』により野間文芸賞。1999年三田文学会の理事長代行に選出された。2001年4月14日、死去
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
265
第61回芥川賞を庄司薫の『赤ずきんちゃん気をつけて』との同時受賞。随分異質な作品が並んだものだ。年齢的にも32歳の庄司に対して田久保は41歳。内容や文体の上からも、片や瑞瑞しい新鋭(当時は)、片やもはやヴェテランの風格といったところ。さて、表題作だが、表現に練達を感じさせはするが、今読むと古さもまた否めない。また、タイトルの意味は明瞭なのだが、朝鮮戦争の兵站基地となった物語の舞台からは心理的な距離が遠く、作家の意図するほどには伝わらないように思う。あるいは、時間の隔たりのせいであるかも知れない。2015/12/17
遥かなる想い
195
第61回(1969年)芥川賞。 朝鮮戦争末期の物語である。 獣医の元で バイトをしながら、 佐世保で 夏を過ごす 僕の目を通して、 当時のの日本の若者たち、そして 朝鮮戦争へと 向かう米兵たちの心象風景を描く。 バイトの同僚の 女子学生 大原順の感性が 奇妙に印象的な本だった。2017/08/25
kaizen@名古屋de朝活読書会
112
【芥川賞】在日米軍で働く獣医の手伝いの学生。馬の世話をしていて、二人だけ後始末のため残る。獣医が逃亡するまではよく分かった。深い河が何を意味するか難しく、結末が何を語っているかも難しい。難しいから芥川賞なのかもしれない。2014/02/21
大粒まろん
21
物語に入るのに時間がかかりました。選評で中村光夫氏の「達者な小説です。達者という点では全候補作のなかでずばぬけています。しかしうますぎるせいか、読後感にどこか空虚なところがあります。と、石川達三氏の「疑問の点がいくつか有って、私は積極的には推さなかった。実直な描写は買うが、その描写が抜け出たもう一つ新しいものがほしいと思った。」に、同意。こう言う作品は兎に角辛いです。8月と言う月に読む運命だったのか、計画性がないからか(それですね)戦中、戦後直後ばかりになってしまい読む順を間違えてしまった泣。うーサクよ。2023/08/22
giant_nobita
8
芥川賞を受賞した「深い河」は、「僕」と同じく「何かから遠く隔てられ、訴えている存在」である馬を殺戮することで、米軍キャンプから解放される自由と、ともに馬を世話してきた女子学生から憎悪されさらに深い疎隔の念を覚える小説。朝鮮戦争に向かう米軍兵と「僕」を、「深い河」を渡るものとして類比させているが、「僕」の一方的な共感に思えて説得力を感じなかった。米軍機の「赤い燈」は「自由の曳航」ではなく絶望的な距離ではないか。その他の短編では女性描写が生々しい「髪の環」と、老境と幻想を地続きで行き来する「生魄」に惹かれた。2017/04/22
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