内容説明
森鴎外の娘である著者が父に纏る様々なエピソードを記す。姉茉莉のこと、父を訪れた人々の素顔、身辺の雑事を始め鴎外を敬慕してやまなかった太宰治のことや中勘助の詩について、永井荷風と著者との関わりなど、鍛えられた見事な文章で綴るエッセイ三十九篇。
目次
朽葉色のショール(子供と読書;冬の生活;蒲公英の穂と読書;勝敗;涼気 ほか)
鴎外から太宰まで(鴎外から太宰まで;津和野行;離脱;小倉と亡き父母;父のふるさと ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
U
45
「因縁」を再読。何でも無いなかに楽しみをみつけるという、父鷗外が大事にした姿勢。遠くにある何かのために、目の前のことをないがしろにしない。《目的》ありきの《手段》。哲学的な内容を含むこの話が、今のわたしに一番響いてくる。森鷗外の作品をよんでみようと思った。2015/11/08
U
45
小堀杏奴は、森茉莉の妹。藤島武二に師事し、洋画もよくした。夫は画家の小堀四郎。この段階で既に心惹かれ、さらにタイトルがわたしの気分を後押し。本を開くと、飾らない文体から、姉妹の共通点を感じるとともに、姉とは異なりつましく、愛情深い人柄が伝わる。内容は、父鷗外のこと、永井荷風のこと、自身の名前や生きる姿勢についてなど、多岐に渡り彼女の感性を堪能できるもの。今わたしが、考えていることと重なり共感できる部分も多く、大いに刺激をうけた。今後も愛読書となるであろう、燦々たる一冊。2015/11/07
shinano
12
14歳の時に父森鴎外を亡くしてからの貧苦と気苦労から、著者の生きることの意味への問いかけ、幸福への羨望はあれど幸福とは一体何をもって実感するのかの問いかけを裡に抱えながら、社会と家族との中で生活してゆく姿勢が書かれている随筆だった。文芸界にも尊敬された偉大な父の人間的崇高さが彼女の齢を重ねていくごとに消化されていっている。キリスト教をその教えから受け入れたのではなく、神父たちの人柄と痩せていない心に感化し、宗旨を受け入れていったところにも著者の人との繋がりを実感しようとする姿勢が奇麗だった。いい随筆集だ。2010/11/26
きりぱい
11
よかった。森茉莉の夢見るような独特さに比べると、普通さがいいというか家族との日常など身近に感じられて読みやすい。いつでもどこでも本を読んでいるけれど、杏奴が話しかけるとさっと本を伏せて相手をしてくれる父。邪魔をされたとうるさそうになんてしないのだ。退屈ほど悪徳はないとささいなことを楽しみ、実際いつでも父が楽しそうにしていたのは祖父の人格の影響であると、父との思い出から今の自分にある幸福を思ったり。娘の産後の世話など孫の世話に追われながらもうれしげな様子が伝わってくる。荷風とのエピソードもよかった。2015/06/24
Ayako Moroi
1
鷗外の孫にあたる娘や息子のことを記したものが多い。鷗外没後、暗い家庭で青春時代を過ごさざるを得なかった筆者であるが、結婚後の生活はつましいながらも幸せなものであったことがわかる。共感するのは、たんぽぽが大好きで、その綿毛を庭に蒔いてたんぽぽをたくさん生やそうとするところだ。都会のベランダで根付いてくれないのが残念だ。姉の森茉莉も、日常に全幅の精神を傾ける父・鷗外の姿を記すが、「父の生き方」によれば、それが鷗外の父で彼女らの祖父にあたる森静男(婿養子だった)の生き方に傾倒したゆえであることが明らかになる。2015/06/03