内容説明
大空襲の夜、劫火に追われて手を離した幼い妻と赤ん坊を死なせた若い夫の慟哭「鶴の書」、死に向かって傾斜する老人の想念に揺曳する死んだ少女像「空の細道」(日本文学大賞受賞)等、短篇十二篇。絶え間なく主人公を脅かし、誘惑する「死」を通奏低音に、「永遠の少女」への憧れを飽くことなく描き続けた結城信一の代表的作品を精選収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sk
4
少女への清潔だが強い憧憬に満ちた作品集。2021/02/12
Lieu
0
孤独な主人公たちよりも、輪郭の淡い儚げな少女と自分の分身の主人公の出会いばかり描く作者に、男の深い淋しさが思われた。『空の細道』の一文「佳子を、知った。」(192頁)の「、」。普通の作家なら「佳子と知り合った」でなくあえて上のように書くのは、まず間違いなく性愛を匂わせるためで、悪達者な書き方である。しかしこの作品に限って、この「、」は、初恋の少女の名を口にするときに照れてしまう内気な少年のような不器用さと読めてしまう。主人公が老人なのだから、あやうさの一歩手前でとどまっているような、不思議な作品である。2022/09/06