内容説明
苛烈な戦場での日々に、死を凝視しつつ、なお友情、青春が息づく、その刻々を淡々と描いた、直木賞受賞作「蛍の河」。堪え難い神経痛と耳鳴りに悩む“ぼく”が山奥での岩魚釣り中、不意に“生きてゆくこと”を深く認知する名作「源流へ」。「帽子と菜の花」「帰郷」「溯り鮒」「名のない犬」等、詩人の眼が捉えた、戦場、身辺、釣り、動物達との交歓。伊藤桂一の小説世界を開示する珠玉の名篇全十篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メイロング
1
幻想力が高い。自然的な美と人の美をすくい上げて、さらに劇的にみせるうまさ。いいですね。後半の私小説でも幻想力はちらほら出てくるものの、強い現実味に吹き飛ばされてしまった感じが惜しい。鏡花や谷崎の方へ進んでたら、すごいのが生まれていたのでは。2017/04/29
AR読書記録
1
「静かなるノモンハン」の伊藤桂一。しかしここにある戦場は、破滅への予感をはらみつつも静かで穏やかだ。そこにいる兵士も、運命や死にどこか恬淡としている。“敵”との交情のような、ある意味美しすぎる物語もあって、正直にいうと「なんか違う」と思ってしまう自分がいた。戦争を描くなら、それへの嫌悪を催させ、忌避させるような、平和を希求する気持ちにさせるものじゃないと、という気持ちがあるのだ。そこは、戦争のない世界が可能と思うか戦争がある現実を受け入れるかといった、個々人の考え方が反映される部分かなと思ったりする。2014/12/05
wasabi
1
一兵卒として戦場で生き抜き、古参兵から理不尽な制裁も受けておられよう。それなのに、何と穏やかな文体なのだろう。かくもぬくもりに溢れた戦場小説を初めて読んだ。むやみに戦争を否定もせねば肯定もしない。むなしく散っていった戦友のためにも、現在の視点でいたずらに戦争批判をするなら、それは彼等の死を汚すものに違いない。2008/07/17
Hula
0
★★★★★ 直木賞(第46回 昭和36年)2015/01/31
クイークェグ
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「源流へ」は、私も神経痛持ちで、かれこれもう30年近く大変辛い思いをしている状況から、何か共感を持つ次第である。作中、病友愛という言葉が出てくるが、私も長年の病院通いにおいて病友が何人も出来、互いに疼痛の話や薬の効果等の情報交換をして居ります。この作品の様に、私もある程度まで病気を克服したいと願っておりますが、現状は非常に厳しいもので、時には死んでしまいたい感情に襲われることがあります。2014/09/11