内容説明
“東京の何もかも”から脱出した“私”は、神戸のトーアロードにある朱色のハキダメホテルの住人となった。第二次世界大戦下の激動の時代に、神戸に実在した雑多な人種が集まる“国際ホテル”と、山手の異人館「三鬼館」での何とも不思議なペーソス溢れる人間模様を描く「神戸」「続神戸」。自ら身を投じた昭和俳句の動静を綴る「俳愚伝」。コスモポリタン三鬼のダンディズムと詩情漂う自伝的作品三篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
テクパパザンビア
25
面白かった。昭和17年の冬 トーアーロードの奇妙なホテルの話。古き良き時代の神戸が素敵に描かれてた。『神戸という街は「頭蓋骨の要らない街」といってもよい位、物を考えないでいられる街』に苦笑い&納得。2017/03/05
松本直哉
24
何もかも捨てて東京脱出といえば聞こえはいいが、その何もかもの中に自らの妻子も含まれ、神戸では別の女と暮らして隠し子を拵えてやりたい放題、それをダンディズムなどともてはやす人々の気が知れない。それでもまあ、ほとんど言いがかりとしか思えない京大俳句事件での逮捕勾留を経たあとでは全てに嫌気がさして逃げ出したくなる気持ちもわからなくはない。戦時下とはとても思えぬのんびりした雰囲気の多国籍都市神戸での国籍も職業も性別もさまざまの人々の織りなす悲喜劇、空襲の後の折り重なる遺体、飄々とした文体の合間に慟哭が聞こえる。2024/07/13
そうたそ
22
★★☆☆☆ 第二次大戦下、神戸の国際ホテルや山手の異人館〈三鬼館〉にて"私"が遭遇する様々な人種たちとの不思議な人間模様が描かれる作品。嘘のような本当の話であるというから面白い。これが事実であるということにどこか信じられず、戦時ながらどこが賑やかである作中の舞台に異世界のような印象さえ感じてしまう。この不思議な人間模様を著者は至って淡々と描いているから、より面白さが際立っているように思う。とはいったものの、なかなか読むのに難儀はした。文章が合わないせいか。じっくり読むものの、なかなか集中できず。2020/02/20
かふ
20
『神戸・続神戸』は戦時から戦後の混乱期の港街の様子が面白く描かれている。アウトサイダーの外国人と娼婦たちと西東三鬼は新興俳句事件で逃げてきた男。川名大の俳句史では白泉らを騙した悪い男になっているが、そのぐらいに強かさがある連中が闊歩するホテル暮らしなんだろう。成瀬巳喜男『浮雲』の自堕落さのような。『俳禺伝』の方はその新興俳句事件までの経緯が述べられていてこっちの方も興味深い。2023/09/21
モリータ
14
◆東灘図書館で偶々手に取る。◆「神戸」「続神戸」は30を過ぎて俳人となった著者の私小説。京大俳句事件で検挙された後、神戸は三宮・トーアロードにあったホテルでの逃避的生活の様子。正体不明の外国人、バー勤めの女たち、ホテルの経営者、そして不景気なブローカーの主人公など、国籍も職業も雑多な人々の、戦時下ではおよそ希望と程遠く、時には悲しく惨い挿話が、さりとて絶望的にでもなく描かれている。情けなさと単純なおかしさに笑えるところも処々に。◆句集も読みたくなるし、三宮近辺の散歩もまた楽しくなる。2018/05/04