内容説明
三島由紀夫が、「私は、堀口氏の創った日本語の芸術作品としての『ドルジェル伯の舞踏会』に、完全にイカれていた。それは正に少年時代の私の聖書であった」と書いたように、「ドルジェル伯爵夫人の心のような心の動き方は、果して、時代おくれだろうか?」で始まるこの作品は、日本の近代の翻訳小説の中で不滅の光芒を放っている。
感想・レビュー
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steamboat
7
三島や堀辰雄に影響を与えたラディゲの二作目にして遺作。おそらく本人たちでさえ理由がわからない心の動きを説明しきっていて、それ以外の物事の描写や、台詞でさえも必要最低限まで省略されている。「無意識の解剖」という三島の評がとてもしっくりくる。人間心理の不思議さが分かりやすく表現され、とても興味深かった。2015/10/09
KUMAGAI NAOCO
2
20歳で早逝したレーモン・ラディゲの遺作。15歳の三島由紀夫や堀辰雄が愛読したのがこの堀口大学の翻訳によるものらしい。ドルジェル伯と年の差婚で嫁いだマアオ(何かこう書かれる事で彼女の神聖さが更に格上げされる感じがする)と、若いフランソワの間に生じた恋愛感情。軽率にも知らんぷりして両者を煽るドルジェル伯に、マアオの告白の手紙を息子に見せてしまうフランソワの母と、他の登場人物の心理描写も卓越してる。エステル・ワイエン以外の登場人物皆好き。色々想像を掻き立てる終わり方も好き。これが永遠の厨二病のバイブルたる所以2023/05/06
やまもと
0
三島が愛読していただけあって、繊細で精緻な心理描写と流麗な筆致、その中で繰り広げられる人物達の複雑な思想の応酬に陶酔してしまった。車中での出来事をきっかけに、物語が一気に加速して繰り広げられる展開。セリューズ婦人に黙って河岸にドルジェル夫妻を連れていくフランソワの心情や、やり場のない感情に名前をつけるという行為に苦渋する夫人…大きな出来事は何もない。しかし鬩ぎ合う不貞な感情。正に「最も淫らで最も貞潔な恋愛小説」である。貞潔故の官能美、これを書いたのが同年代の青年なんて!多くの人が耽溺するのも頷ける。2014/05/26
龍國竣/リュウゴク
0
三島由紀夫が「イカれ」た名訳。2013/09/27
佐倉惣五郎
0
三島由紀夫の影響から、どうしても堀口大學訳がよかったので市立図書館で借りて読んだ。『肉体の悪魔』でも思い、また解説にもそうあるが、ラディゲは中盤から急にアクセルを踏み出すから恐ろしい。あのなんでもないような電車の中の家族の心理、それを目にしたフランソワの心理、ここから一気に物語が加速する。しかもそれがあの透明なエレガンスの訳文によって綴られる。あの夢のような雰囲気、とても面白かった。 お気に入りはオオステルリッツ公爵夫人。(オ『オ』ステルリッツ、なのがいい。「金ぴか」というのがよく伝わる)2023/12/21