内容説明
メロンの温室、煙草の畑、広がるれんげ草の群れ。香り高い茶畑、墓場に向かう葬列、立ち並ぶ霜柱など。学校までの道のりに私が見た自然も人間もあまりにも印象的であった。心を痛めることも、喜びをわかち合あことも、予期しない時に体験してしまうのを、私はその頃知った。永遠の少女詠美の愛のグラフィティ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
151
山田詠美らしくもあり、またらしくない小説集。9篇の短篇から成るが、読者である私たちはそこで少女時代の彼女に会うことが出来る。9篇はいずれも1人称で語られるが、フィクションでありながらも主人公は基本的にはかつての作家本人だろう。その意味では、ある種ノスタルジックな小説でもある。誰しもが(男性の読者であっても)共感し得る要素をいずれの短篇もが持っていると言えるだろう。ただ、「晩年の子供」に典型的なように、最後は日常に収斂してしまい、文学の高みに飛翔しきれないのが残念だ。「ひよこの眼」には可能性があったのだが。2013/08/22
青蓮
104
子供の目線で書かれた短編9編収録。大人が思っている以上に子供は色々なことを敏感に感じ取って考えているのだなと思わせてくれる作品。著者の山田詠美さんも作中に出てくる少女達のように早熟な子供だったのだろう。子供特有の瑞々しく柔らかな感性と未熟故の傲慢さ、残酷さが鮮やかに描かれていて胸を抉るよう。「火花」だけやや趣きが異なる作品だけれど、姉が妹に語る男女の恋愛についての持論に妙に納得してしまう。多分これは若い頃にはなかなか共感しにくい所だろうが、それが解ってしまう自分はそれなりに歳を重ねてきたのだなと思った。2018/01/09
扉のこちら側
90
2017年72冊め。この頃の山田詠美作品が好き。このどこか諦めたような、達観した子どもたちの描写が秀逸である。話に聞いていた『ひよこの眼』が読みたかったのだが、噂に違わず哀しくいい話だった。表題作のように思い込みの不幸に酔いしれる子どもの頃が懐かしい。2017/01/22
chimako
85
子ども目線の短いお話が9編。子ども目線だけれど書き手は詠美さんなので一捻りも二捻りもあって、性的な匂いもする。表題作は犬に噛まれて半年で死ぬと思い込んだ女の子の心の動きが分かりやすい言葉でスッキリと描かれる。どの話も無駄なカタカナが全く無く、安易だが深く、抉られるような情景描写にドキリとする。詠美さんはこんな子どもだったのだろうか。死について思い、肉欲について真剣で、命の扱いを考える。最後の「ひよこの眼」は既読。悲しい話だった。2017/09/23
メタボン
41
☆☆☆☆ 思春期を経て大人になっていく過程で忘れてしまう心情を、繊細に描いており、胸が甘苦しくなった。桔梗の紫色のはかなさ、蝉の空っぽの腹、ひよこの眼に浮ぶ死の予感など、ちょっと怖くなる感覚もあり、なかなかに鋭い短編集だった。2021/06/03
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