内容説明
時間が作り出し、いつか時間が流し去っていく淡い哀しみと虚しさ。都会の片隅のささやかなメルヘンを、知的センチメンタリズムと繊細なまなざしで拾い上げるハルキ・ワールド。ここに収められた18のショート・ストーリーは、佐々木マキの素敵な絵と溶けあい、奇妙なやさしさで読む人を包みこむ。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
375
1981年~1983年の間に書かれた18篇のショートストーリーズ。個々の作品に連関はなく、かなりバラバラ雑多に収録されている。比喩の面白さで成り立っているもの、荒唐無稽さを楽しむもの、またハードボイルド風のタッチのものや、羊男の登場する明るいカフカ風の物語もある。篇中、もっとも捨て難いように思ったのは「彼女の町と、彼女の緬羊」。1つ1つはいずれも短い作品なので、リラックスして自由に書いたのだろうと思いながら読んでいたのだが、「あとがき」を見れば、必ずしもそうでもないようだ。2012/06/20
夢追人009
219
村上春樹さんが紡ぎあげるノスタルジックでメルヘンチックな18編のショート・ストーリー短編集。本書は細かい事やオチを気にせずに読むのが正解で次第に心地よい按配になって来ます。タクシー運転手は本当に吸血鬼か?なんて悩まずに理屈っぽい難解な言葉遊びの迷宮に苦笑しつつ物語に流れる洋楽ナンバーのメロディーに身を委ねれば良いでしょう。処女作「風の歌を聴け」の雰囲気も随所に感じましたね。私のお薦めは文句なしにノスタルジックな世界に浸れる「5月の海岸線」ですね。また物語とは全く関係のない佐々木マキさんの絵もいい味ですね。2018/12/30
おしゃべりメガネ
209
実は数ある村上さんの作品群の中で、意外?にも好きな上位に位置する作品です。なんでもない日常の短編集ですが、この‘なんでもない’感がスゴく好きで、読むとココロがとても穏やかになります。もちろん古くは『ノルウェイ~』、最近は『1Q84』まで、長編は言うまでもなく素晴らしい名作を世に知らしめてますが、実は短編集も逸品な作品が多く、他にも『パン屋再襲撃』なんかはリニューアルされて発刊されていましたから、難解な長編で村上春樹さんの世界にアレルギー感(反応)のある方も、改めて短編集の世界を楽しんでほしいです。
おしゃべりメガネ
161
23編のショートショートです。どの話もとてもステキで、春樹さんらしい不思議さがまた魅力的です。難しさはほとんどなく、春樹さんが得意でない方も気軽に手にとって楽しめる1冊になると思います。春樹さんがとてもリラックスして、書きたいように自由に書いたんだろうなぁという雰囲気が十分に伝わります。中でも『図書館奇憚』は今の春樹さんの作風にもしっかりと引き継がれていて、なんとなく原点めいたモノを感じさせてくれます。ひとつひとつ、ゆっくりとお菓子を食べるような感覚でそれぞれの話をのんびりと味わってほしい短編集です。2018/11/25
ハイク
155
1981年から83年にかけて雑誌に書いた23編の短編小説。初期の作品であるが、現実的な内容と非現実的な内容その中間の3つに分類出来る。「カンガルー日和」は夫婦で動物園に行きカンガルーの赤ちゃんが母親の袋に入っている所を見に行く物語りで現実的である。「図書館奇譚」は空想の世界である。私には悪夢を見たような物語である。その中間が「鏡」である。学校の夜警の仕事中に鏡に映った自分の姿に驚き木刀を投げつけた幻想の物語である。大なり小なり経験があるであろう。著者は多様な種類の短編を書き、その後村上ワールドを確立した。2016/05/03