出版社内容情報
【内容紹介】
われわれ日本人にとって、陶淵明や李白や杜甫は身近かに親しまれている。しかし、3千年というとほうもなく長い中国文学史上において、彼らの詩や作品はどのように位置づけられるのか。はたまた、中国文学そのものの特色はどんなところにあるのか。そうした中国文学の特色や性質を、本書は、各時代各ジャンルの代表的な作品に即し、しかも、世界文学という広い視野から平易に解明する。と同時に、文学とは何かをもわれわれに考えさせる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ロビン
5
吉川先生による簡略な中国文学史と、中国文学の特性についてのいくつかの談話や論文風の文章が収録されている一冊。 歴代の中国文学の作者たちの政治に対する関心の高さは、一般に日本の文学者にはあまり見られないものだが、能力や地位のあるものはその力に応じた義務を負うという西洋のノブレス・オブリージュの概念を想起させられた。自分一個のまた身内のことだけに関心を持ち生きるのではなく、天下万民や立場の弱いもののために与えられた才能を使う杜甫のような人物を「詩聖」と尊敬する中国人の態度は立派であると思う。2019/04/06
nori_y
5
中国文学の特徴や文学史の流れ、各時代・各人の特徴などが、ゼロレベルの入門者である私にも理解することができるよう丁寧に書かれている。口述を筆記したパートなどは、講義を受けているかのようだ。薄い本だが、とても中身の濃い一冊だった。なるほど、西洋は人の外に神を、中国は人の中に神(聖人)を設定しているのか。2018/03/09
いち
4
大学の授業で参考書として指定されていた本。ずっと家にあり、この機会に読むことに。学術書は全く頭に入ってこないものもある中で、語りかけるような文体、それでいてしっかりと論じており、スッと読めた。解説で「詩の世界をわれわれの前に開いてくれる感覚のみずみずしさ。そして独特の格調を持つ文体」と興膳宏さんがおっしゃる通り。「西方のように虚構を重んずるのと、日本をも含めての東方のように非虚構を重んずるのとは、相互に補完すべき価値」「人間の問題を解決するのは人間のみ」中国文学が日常に根差したものであることがわかった。2020/05/24
サルミアッキー
3
中国では古来より神の観念が希薄で、例えば西洋でホメロスが英雄叙事詩を書いていたのと同じ頃、中国は『詩経』で日常生活の抒情を表現しており、この国の文学の特徴として、空想の世界を歌った叙事詩や戯曲は少ないが、人間生活の抒情を歌った作品の豊富なことが挙げられる。さらには人間の社会的側面を重視し、従って文学者も政治への関心が強く、老荘のような隠遁者であっても、彼らの隠遁は政治への無関心ではなく積極的な抵抗だと考えるむきもある。中国文学の根底には人間信頼があると感じた。2018/05/30
橘 劫
2
入院したときに読んだ一冊。中国文学の枠組みから懇切丁寧に書かれているわかりやすい一冊。特に、漢詩の訳が絶妙でとても素敵な一冊です。2018/09/27