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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
安南
45
奥泉光の『滝』の参考に。純粋な情熱の行く末はやはり死でしかない。汗とかけ声の陶酔、面金ごしに視る瞳の色、袴の脇から覗く素肌の鮮烈なエロティシズム、若い肉体の躍動美。その官能的な描写に頰を熱くして読んだ。そして少年の大人の男への憧れ、海が重要なモチーフであるところなど同時期に書かれた『午後の曳航』にも通じる。詩の罠の中をそれとは知らずに、悠々と通り抜けることができた次郎も海に惹かれ海を視界の片隅から追い出しながら、結局は海に裏切られ破滅させられる。2015/05/14
michel
17
★4.2。剣道部を舞台にした精神世界。人間にとって、すがるべき理想像のような国分次郎。彼は勝利者に用意された罠を悠々と通り抜ける。同級生の賀川は彼を重苦しく感じている。傲慢さだけならまだいい。が、彼の清潔さ純真さを知るゆえに、尚更に嫌悪を抱かずにいられない。下級生の壬生は技術的にも精神的にも遠く及ばぬ国分に憧れている。心酔する国分に対し裏切りを演じることで一歩、肩を並べたように感じた。それぞれの立場を用い、まぁ三島美文で形而上の精神世界を形而下に実現させてくれる。ラストの一文、危険な理想世界。2020/08/10
桜もち 太郎
7
昭和38年を中心に書かれた9つの作品からなる短編集。表題の「剣」がいい。大学剣道部主将の国分。人にも自分にも厳しい。剣道に対して濁りのない鋼のような精神を持っている彼であるが、あまりの要求の高さに部員の裏切りに遭う。そして自ら命を捨ててしまう国分。結局は諸刃の剣だったのだろう。三島らしい透き通るような文だった。「魔法瓶」は夫婦が裏切り裏切られ、「「真珠」は人間って・・・、と醜さが際立っている。「切符」はどんでん返しで驚いて、「苺」は一線を越えた少女が微笑ましい。さすが三島由紀夫、短編もとても良かった。2014/02/19
ブラックジャケット
3
ボリュームからいうと中編小説と呼ぶべきか。一気に読み通すことのできる ページ数で、完璧な三島美学の小宇宙が道場の空間に浮揚した。国分次郎 の剣道に対するストイックな情熱は、三島の文学観と重なる。さらに瞠目 すべきは、剣道の肉体の動きを文体が吸収し、昇華された小説空間に再現 したことだ。この小説を読む喜びはたとえようがない。WIKIによると本作が雑誌で掲載された時から市川雷蔵が映画化を望んだそうだ。「炎上」で映画俳優として一つの段階を昇った雷蔵が、今一度三島作品に出演したいという欲求はもっともだ。 2017/01/22
東森久利斗
2
純粋、純真、高潔、透明、正義、傷つきやすく雄々しい、美しくも儚い自尊心、本質的原初的な日本人のこころ。冷酷、残酷、華麗、危うい精神と聖心をはらむ心の奥底に隠された感情、一切の贅肉を剃り落とした冷徹な肉体。繊細で、脆いガラスの器のような青春の日々の一齣。「雨のなかの噴水」がベスト。2023/07/31
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