内容説明
夏祭りの夜の出会いから別れまでの濃密な恋の顛末を描いた「鶴」、失恋したばかりの一夜の出来事「七夕」、離婚した夫が転がり込んできたことから始まる再生の物語「花伽藍」、恋人とともに飼い猫にまで去られてしまった「偽アマント」、未来への祈りを託した「燦雨」。結婚という制度から除外された恋愛の自由と歓び、それにともなう孤独を鮮烈に描いた、彩り豊かな短篇集。
著者等紹介
中山可穂[ナカヤマカホ]
1960年生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒。93年『猫背の王子』で作家デビュー。95年『天使の骨』で朝日新人文学賞を、2001年『白い薔薇の淵まで』で山本周五郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
117
『弱法師』を読んでから3年ぶりの中山可穂の短篇集。彼女の小説に登場する女性は、概して切なくて昏い女が多いのだが、女の意地の強さを感じる。表題作【花伽藍】の主人公が、まさにそんな女である。何とも遣る瀬無い女なのに、うちに気骨さを秘めているのだ。そっと手を差し伸べてやりたくなる女だ。さて、帰宅したら、3年暮らして別れた男が部屋に悠然と入り込んでいたら、あなたならどう対応しますか?本作では、この男へ向けた女の対応、気持ちの変化が実に巧妙に描かれていて面白い。中山可穂の吐く毒はクセになります。2017/11/28
真理そら
53
5編からなる短編集。作者のもう二度と長編が書けないのではないかという絶望とこの短編集を作ることで前に進めたというあとがきが興味深い。作者が「リボンをかけて差し出した」短編集なのでじっくり読んだ。表題作のヒロインは人がよすぎてこの後どうなるのか心配しつつ読了。2024/02/29
なる
49
冒頭の一文で既に虜になってとらわれてしまう。なんていう棘を晒す人なんだろう。喉元をされるがままに噛みつかれてしまう。ああ、敵わない。胡乱な魂を、茫洋とした心を、すっかり食い散らかされてしまった。その設定からある種、拒否反応を起こす人もいるかもしれない。きっと自分自身が(おそらく)男性だからこそ受け入れられる点もあるだろうし、逆の立場だったとしたらどうだろう。けれどここにあるのは普遍的な愛で、そこには男性性も女性性も超越した、生々しくも汚れのない真実がある。それを掴むには現実はあまりにも情報過多で、無様だ。2020/10/26
麻衣
30
声は雨のように降る。ひとの声がこんなにも頼りないものだったなんて知らなかった。もしふたりが望むような未来があったとしても、このひとを連れてはいけないような気がしてそれはとてもさみしい。手を離すのも求めるのも、愛していれば地獄かもしれない。2017/05/01
こすも
28
an・anの官能小説特集で知った1冊です。初の中山可穂さん。女性同士の恋愛を描いた短編集で、性描写が多目ですが、どの作品も美しい筆致で描かれているため、官能性に昇華していると思いました。特に素晴らしいと思ったのは表題作の「花伽藍」とラストの「燦雨」。「花伽藍」は、短編の典型的なストーリー展開とラストシーンですが、優しい眼差しの人物造形と美しい風景描写で真正面から描き切っています。「燦雨」は、官能から老老介護まで幅広なテーマを扱い、二人が天寿を全うする美しいラストまで、力のこもった作品でした。2017/06/03