内容説明
ヴィクターには或る恐怖症があった。14年の刑期を終えて出所した今、彼はその恐怖の因となるものをいずれ目にすることを予測していた。彼のもう一つの関心は、フリートウッドという元刑事のことだった。ヴィクターは女を襲って追われる途中、フリートウッドを銃で撃ち、逮捕されたのだ。彼は半身不髄となったが、クレアという恋人と幸福に暮しているという。不思議な運命の糸に操られたかのように、ヴィクターは彼らと出会った。クレアを含む3人の間に生じた奇妙で、危険な関係、それがやがて恐るべき破局を生むことになるのだが…。CWA賞受賞の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
210
1986年作品。ほぼ全編を犯罪者ヴィクター の視点で語られる。 強姦・刑務所・発砲に至る その内面が 生々しく描写されている、古典的な展開だが 迫力がある。壊れていくヴィクターの心が そして クレア、ディビット三者間の心理戦が いかにもミステリーで面白い。 真実はどこにあるのか、そして何が本当なのか.. クレアの存在が印象的な物語だった。2016/09/18
まふ
104
犯罪者の一方的な感情と論理、それを許す側の博愛・同情という美名の甘さ・心の緩みとの行き違いが生んだ当然の結果、というのが感想。思い込みの激しい凶悪犯罪者ヴィクターが出所して十数年前自分が撃って下半身不随にした元刑事フリートウッドを訪ねると恋人のクレアも含めて受け入れてくれる。だが、受け入れ側のクレアの甘さが彼を増長させてとんでもない方向に進んでしまう…。何ともピンと来ない物語の進み具合である。作者の無理やり作り上げたストーリーのような気がして現実味が薄く、今ひとつ納得できない作品であった。G1000。2023/09/16
NAO
73
自分の行為に責任を全く感じないどうしようもなく身勝手な人間ができてしまった真相。ヴィクターにはパニック障害があり、パニックになると、勝手に筋肉が痙攣する。では、そういったパニック障害の原因とは何だったのか。仲睦まじい両親の一人息子ヴィクター。だが、両親が仲睦まじいということと、子どもが愛情をたっぷり受けて育つということはイコールではない。ヴィクターはとんでもない性格破綻者だが、そうなったのにはやはりそれなりの原因がある。こんな人間になるしかなかったヴィクターが哀れでならない。2021/06/24
セウテス
70
語り手であるヴィクターは、14年の刑期を終えて出所した。彼が撃ち下半身不随にした元刑事のデイビッドと恋人のクレアの処に、会いに行くことからサスペンスが始まる。このヴィクターの異常な心理の描写に、本作の目的が在るのだろう。たしかにCWA賞受賞の人間心理の描写は、素晴らしいものが在ると思う。しかし本作は推理を楽しむ構成はなく、ミステリとは思えない。ヴィクターの全てを他人の責任に転化する性質や、どうにも理解の出来ない人物ばかりが登場し、話にも全く集中出来ない。これだけ不快な人間の物語は、読む人を選ぶだろう。2018/01/24
HANA
64
女性を人質に立て籠もったヴィクター。その時撃たれ半身不随となった刑事フリートウッド。ヴィクターが出所した所から話は動き出す。のだが、終始一貫してヴィクターの主観から物語は展開し、しかも彼の思考が身勝手を通り越してほぼクズなので読んでいてひたすら不快。イギリスミステリってこういうの書かせると本当に上手いなあ。中盤から刑事に再び出会う事になるのだが、そこからの展開はさらに輪をかけて身勝手。勝手な思い込みに責任転嫁、不快な人物像に不快な行動原理、徹頭徹尾不快なのに読むのを止められない。本当に嫌なミステリだった。2020/10/10