出版社内容情報
吉本 ばなな[ヨシモト バナナ]
著・文・その他
内容説明
弥生はいくつもの啓示を受けるようにしてここに来た。それは、おばである、ゆきのの家。濃い緑の匂い立ち込めるその古い一軒家に、変わり者の音楽教師ゆきのはひっそりと暮らしている。2人で過ごすときに流れる透明な時間。それは失われた家族のぬくもりだったのか。ある曇った午後、ゆきのの弾くピアノの音色が空に消えていくのを聴いたとき、弥生の19歳、初夏の物語は始まった。大ベストセラー、そして吉本ばなな作品初の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三代目 びあだいまおう
248
著者24才の作、作家様の恐るべき才能に最大の賛辞と敬意を抱きながら私は本を読む。人より少し勘がよく、幼き頃の思い出や記憶を持たない主人公弥生。普通の家庭の幸せに囲まれながらもふとランドセルを背負ったまま訪れた先はおばで音楽教師のゆきのの家。やがて19才となり、いささか哀しい予感を抱えおばの家に転がり込む弥生の夏物語。甘くもの悲しく揺れる気持ちや、優しさゆえの決意などが、美しきばなな文字で織る情景描写で漂う。やがて真実にたどり着く弥生。名作❗あとがきで語られる生みの苦労と読者への思い、本を閉じて合掌した🙇2019/01/13
ヴェネツィア
195
著者自身は「あとがき」で、この作品を「ある方向性の卵」といい、「未熟すぎる」と述べている。ただ、そのことは逆に言えば、これまでにはなかった小説の新たな可能性と、そして新鮮な瑞々しい息吹とを感じさせるということでもある。小説全体のトーンはあくまでも静謐で、時には暗い。とうとう辿り着くことができなかった、幻の幸福な家族。未来もまたどうなるかわからない。それでも弥生には「家族」がある。最後までゆきのを「おば」と呼び続けることは、弥生にとっての家族の確かさを示している。しかし、やはりどこか淋しさの漂う小説だ。2012/08/25
おしゃべりメガネ
165
先日の名作『キッチン』に続いてのばななさんです。今思うと、高一の男子(自分)が手にとって読んでいたと思うとなんだかとても不思議です。『キッチン』ほどテンポの波はありませんが、ゆったりとした時間の流れをココロゆくままに感じることができ、この世界観、やはりクセになっています。幼い頃の記憶が曖昧な主人公「弥生」とミステリアスな伯母「ゆきの」、爽やかでしっかり者の弟「哲生」、「ゆきの」の恋人「正彦」と限られた人物が繰り広げる会話や、何気ない生活の一コマ、列車の中の風景でさえも「美」を感じる素晴らしい作品でした。2015/06/13
おしゃべりメガネ
160
読友さんのステキなレビューを拝見し、読みたくなっての再読です。うん、やっぱりいいなぁ、ばななさんは。何がと聞かれるととにかく雰囲気がとしか思いつかないのですが、文章が生み出す、優しく温かい雰囲気が、素晴らしいとしか言えません。それぞれに事情を抱えた姉妹、姉弟、そして家族の物語ですが、誰もが温かい雰囲気の人柄でホワッとします。幾つもステキな文章があって、ココロにすっと優しく染み渡る感覚が本作を何度も再読への旅へと導いてくれます。30年以上も前の作品なのに、全く色褪せるコトのないばななさんの永遠の名作です。2019/05/06
風眠
152
(再読)幼い頃に事故で両親を亡くした弥生。引き取られた家族と幸せに暮らしながらも、日常の一部のように家出を繰り返していた。高校の音楽教師の叔母は、生徒と恋仲になり中絶、そして逃亡。で、その叔母が実は弥生の本当の姉であると判明し、弥生も引き取られた家の弟と恋仲になり・・・と、冷静に見れば結構な昼ドラ展開なのに、少しも嫌らしくない。それはきっと、弥生も弟も、姉である叔母も、養父母もみんな、言葉の端々に温かな愛が滲む人達だからだ。『哀しい予感』があっても、何も壊れず帰ってゆける場所がある。なんて素敵な事だろう。2015/07/14