内容説明
そこに立った子は、ふしぎな面立ちをしていた。最近、都で流行りだした舞楽の面のようだった。風が吹くと、赤毛がふわりとふくらむ。異国の香りをただよわせるその風貌には、高貴なたたずまいと、おそろしく異質な妖怪の気配とが同居していた。これからお話しするのは、今をさかのぼる千年前、平安の世で活躍した陰陽師・安倍晴明の秘められた物語である。それでは、長いながい占術の歴史をひもといていくことにしよう…。陰陽道にたいする膨大な知識を駆使して綴られた、安倍晴明の一大物語。
著者等紹介
荒俣宏[アラマタヒロシ]
1947年、東京生まれ。慶応義塾大学卒。膨大な知識を駆使して、古代文明からサイバー・カルチャーまで多岐なジャンルにわたる文筆活動を展開。『帝都物語』(角川文庫)で一世を風靡する
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感想・レビュー
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Porco
15
昨今の超然としている安倍晴明像とは異なり、姉さん女房に弱く、妙に小心者だったり人間味がある晴明が描かれていた。後半は宇治の橋姫とそれと同一視された茨木童子の逸話が織り交ざった鬼女と渡辺綱の妙な因縁。その主人の源頼光と丑御前の関東合戦などの鬼談へと展開していく。夢枕獏の晴明像が浸透し切っている中で、様々な古浄瑠璃や歴史書や説話を元に、新鮮な安倍晴明が主役の物語に仕立てたのは素晴らしいが、かなりあっさりと終わってしまうのは勿体無い。2025/06/20
あおい
4
恨みを抱くと鬼になるのか~気をつけよう。。。安倍晴明は映画のしか知らないので、そのイメージとは真逆なところが面白かったなぁ。幼き頃助けた亀の縁で竜宮城へ行き、年上の姫に見初められるってのと奥方になった姫にアタマが上がらないってのが、いとをかし。清明は式神を使うけれど、それに裏切られて面目を失うへっぽこぶり。。。まぁ最後にはどうにかしたみたいだけど~いいとこ無しな気がするが、これでいいのか?このオハナシ、陰陽師安倍晴明の秘められた物語であるそうで~秘めたままが、よろし。。。2017/08/26
brink
4
晴明が主人公の長編かと思って読み始めてみると、どうやら、各話主人公はばらばらの連作短編のよう…しかし読み進めると、実は年代順につながってリンク。でもキンナラ鬼の話だけはリンク外のような?あと、茨木童子と橋姫の関係がどうもわからず。ラストの描写からみると同一キャラかと思ったけれど、橋姫と茨木が別に動いている描写があったようでもあり、わからなくなってしまいました。2009/03/21
いっち〜
3
聖徳太子の時代から安倍晴明(平安時代)までが舞台の陰陽師や方術士の短編集。陰陽術や方術、式神や鬼等の神秘的な雰囲気、ドロドロした感情丸出しの人物、どの短編もバッド(寄りの)エンドなのが特徴。ヒーローのイメージが強い安倍晴明も、この作中では失敗をしでかしたり、性格も良くないとなかなかにヒドイ。むしろ俵藤太とかの武士連中の方が人間味はあるし、話もまだ少しは救いのあるので読む気になった。芦屋道満の話に期待してたけど、あっさり終わってしまったのは残念。全体的な雰囲気はしっかりしてるので、雰囲気を楽しむのが良いかも2017/10/28
Smith, Ordinary. Person.
3
副題に安倍晴明物語とあるが、最初から最後まで晴明が主役というわけではない。 前半は、厩戸皇子、吉備真備、藤原秀郷。 後半は、緊那羅、茨木童子、橋姫、丑御前、――等が主役である。つまりこれは、陰陽道を軸とした日本文学史を、小説という形で著した物なのだ。収められている話は著者の完全なる創作、というわけではない。全て古典を基として再構成しているのだ。ゆえに、古典と陰陽道(民間信仰)の関係を把握していないと、面白さは半減するかも。読者を選ぶ本。