内容説明
美しいばかりでなく朗らかで怜悧、しかも文学的才能もゆたか、という類まれな女主人・定子中宮に仕えての宮中ぐらしは、今まで家にひきこもり、渇き喘いでいた清少納言の心をいっきに潤して余りあった。男も女も、粋も不粋も、典雅も俗悪も、そこにはすべてのものがあった。「心ときめきするもの」など、小さな身のまわりの品、事象を捉えて書きつけた『枕草子』。そこには、共に過ごし、話に興じた、細やかな情趣を解してくれた中宮への憧憬と敬慕、中宮をとりまく花やかな後宮の色と匂いと笑い声を、千年ののちまで伝えたいと願う清少納言の夢が息づいている―。平安の才女・清少納言の綴った随想を、千年を経て、今清少納言・田辺聖子が物語る、愛の大長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
76
中宮定子との絆というものをつくづく見せつけられたようでした。少し様子が変わってきたのと同時に、清少納言も定子についていくのが少し高飛車のようにうつります。でも、そこには共に時を興してくれた証のようなものも感じました。小説という形で読むことで、『枕草子』の世界が広まります。2018/07/21
aika
43
藤原道隆の死により、威光を失った伊周と隆家は地方へと左遷され、道長の天下となった平安の世。中宮定子を取り巻く環境も変化するけれど、それでもなお、軽快で場がぱあっと明るくなる中宮と清少納言のやり取りは健在で、ふたりの揺るぎない信頼関係は麗しいです。中でも勅命により捨てられることになった犬の翁丸のエピソードはほろりとしました。中宮を喪ってから、敬愛し続けた彼女を匂い立たせる随筆を書き上げ、それが千年先の世まで伝わったこと。ずっとずっと昔、書くことを矜持として、たくさんの恋をして生きた女性の生涯にもの思いです。2021/04/10
ちゃいろ子
38
中宮定子の悲しい運命を知っているからこそ、どんな時も明るく美しく何事も面白く生きようとする姿が 逆に悲しい。 でも、帝にあれほどまで深く愛された定子はとてもとても幸せな女性だったのだろうし、千年後の人間にそう感じさせてくれるものを描き遺した清少納言も素晴らしいと思った。 折に触れ、あなたの書くものは素晴らしいわ!書き残しなさい!と、憧れの人から励まされたら、そりゃあ清少納言頑張りますよね。 けして楽しい事ばかりの人生ではないはずだけれど、何事も面白がり、それを書き残した清少納言を心から尊敬。2023/07/15
33 kouch
31
後半の紫式部との比較論が良かった。お互い酷評もするが…それぞれ一途に仕えた障子・定子への想い、宮中での生活、事件、人間模様。それを止めどなく書物に記し永遠のものとする。ひとつは物語、他方は随筆。"生きる楽しさ"を、その一瞬を文書にとどめ後世に伝えようとした清少納言達の着想は素晴らしい。他にも密告した息子を叱る親信爺さん、翁丸を庇う清少納言、則光にも負けない豪胆キャラ棟世。下巻も清少納言の魅力がタップリ。そういえば春は曙…の文章はどこへ。どちらかと言うと平安時代の文化に面白おかしく触れることがてきる教養本2025/01/04
coco夏ko10角
28
田辺聖子さんが書いた清少納言(海松子)、物語の繋げ方、棟世との関係の描き方……すごく良かった。主上と中宮定子様、中宮定子様と清少納言、想う心が本当に素敵。そして定子様はもちろん、おかくれ後の彰子様のことを思うともう切なくて…。読んでよかった、とても面白かった。2015/06/22