感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きいち
37
なぜ今まで読まずにいられたんだろう。必読の一冊だ。◇ここには英雄的な死も、涙の別離も、歓喜の生還もない。在るのは、望まぬ学徒出陣ながら目の前の現実に真剣に取り組んで少尉となり、特攻に赴く大和に乗船した吉田の目から見た、ただただ即物的な事実の集積。簡潔な文語表現でなければ決して読むに堪えない光景。好漢の大尉がやっとのことで見出した自分たちの死の意義も、重油の中での漂流、生き残った後ろめたさを越えられるものと思えぬ。一方で、最期のビスケットやサイダーがいかに確かなものか。◇一緒に収められた後日談がありがたい。2016/07/30
James Hayashi
26
作家の書いたものではない。東大在学中に学徒出陣で戦艦大和に乗り組み、運良く生き残った著者。戦記モノの真骨頂。大和最期の出航は悲壮感あふれる。燃料は片道のみ。乗員は家族への手紙をしたためる。思い残すのは家族の安泰のみ。統率された乗組員からは決死の覚悟と躍動感を感じた。総乗組員3000名の特攻隊。生存者は300名弱。戦後すぐに書き留められたがしばらくはGHQにより発禁処分を受けていた。阿川弘之、吉川英治、三島由紀夫も絶賛する戦記物の傑作。泣けた。 2015/11/12
おぎにゃん
9
格調高い文語体で描かれる戦艦大和の最期。22歳の若さで大和最期の戦いに参加した吉田氏の視点から描かれる本書は、静謐なる哀しみを感じさせる。淡々と事実のみを記述した筆致と、生還を期しがたい戦いに赴く者たちの諦観と、あっさりと消えてゆく命の描写ゆえか…自らの死にゆく意味を、愛する人たちの幸せに求めながら、その一方で、破滅に突き進む祖国で生き続けねばならない人たちの不幸を思い悩む姿に涙した…いかなる主義主張も寄せ付けない、さきの戦争で散った人たちへ捧げられた純粋なる鎮魂の書。暗唱したいほどの名作である。2014/04/01
nchtakayama
8
角川文庫で読んだ。その理由だけでは納得できない、自分が死ななければいけない理由には足りない、と叫んで上官に殴られた青年の、彼の居た所から私たちはどれだけ進めたのだろう、と思ったが、戦後74年を経て、やっと彼の所にたどり着いたくらいかな。それとも既に一周したのか? それとも正反の繰り返しか。戦争の美しさに酔わずに、がんばろうと改めて思った。2019/06/14
ゆき
8
★★★★★:太平洋戦争末期、学徒兵として戦艦大和に搭乗しその沈没を体験しながらも、奇跡的に生還した著者による手記。当時の青年将校の衒いのない素直な言葉で綴られていて、そこにはやたらと死者を美化し礼賛する言葉も、戦争の悲劇をことさら誇張する言葉もなかった。ただただ戦争がもたらした「死」と「生」が記されているに過ぎないが、だからこそ胸に迫るものがあった。また、今の世相である消極的で自己中心的な「戦争嫌悪」が、なんら真の「平和」に貢献していない事をひしひしと感じることができた。今の時代にこそ読まれるべき作品。2017/10/13