内容説明
社長令嬢・絢子の新婚生活は、何不自由のないものに思われた。夫の俊男は知的でスポーツマン、誰もがうらやむ好青年だった。しかし、ふと覗かせる夫の素顔は絢子を不安にさせ、俊男との見合いを勧めたはずの姑・滝川夫人も、何気ない言動で絢子を悩ませ始める。そして、妻には理解しづらい夫と姑の微妙な関係…。親子、嫁姑、夫婦、それぞれの心理から、結婚生活がもたらす確執を描く、三島由紀夫の傑作エンターテインメント。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925(大正14)年、東京生まれ。中学時代より習作をはじめ、16歳の時に『花ざかりの森』を発表。47(昭和22)年、東京大学法学部を卒業後、大蔵省に勤務。翌年退職し、本格的に作家活動に入る。49年、初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行し、作家としての地位を確立。主な著書に、54年『潮騒』、56年『金閣寺』(読売文学賞)、57年『鹿鳴館』、61年『獣の戯れ』、65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)などがある。『豊饒の海』四部作を完成させたあと、70年11月25日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地にて自決。享年45(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
198
三島の長編小説の中では、マイナーな作品の部類に属するだろう。物語の中核をなしているのは、いわゆる嫁・姑問題なのだが、そこはハイ・ソサエティの世界での出来事なので、TVドラマなどとは大いに違った様相を(本質は変わらないのだが)呈することになる。なにしろ、準主人公(姑)の滝川夫人は、趣味の乗馬(かなりな腕前だ)と、宮様や各国の大使夫人を招いてのパーティに明け暮れているのだから。それにしても三島の描く女はうまい。絢子(嫁)も、滝川夫人も実に鮮やか。ただし、それは歌舞伎の女形が女を観察するかのようでもあるのだが。2012/07/06
優希
114
面白かったです。三島の極上エンタメですね。社長令嬢の絢子は滝川夫人に気に入られ、息子・俊男と結婚します。誰もが羨む知的でスポーツマンの俊男ですが、ふと覗かせる表情に不安を感じる絢子を見ているとこちらまで不安になります。滝川夫人との関係も悩みとなり始め、夫婦・嫁姑の不穏な空気を感じずにはいられませんでした。夜会服をきっかけに描かれる結婚の確執は、絢子の変化の物語と言えるかもしれないと思いました。2016/05/26
青蓮
97
滝川夫人に気に入られて彼女の息子・俊男と結婚することになった絢子。そこに待ち受けていたのは華やかな社交界。何不自由なく幸福に満ち溢れた結婚生活だったが、いつしか暗い影が落ち始めてーー親子、嫁姑、夫婦の微妙な確執を描いた極上のエンタメ作品。とても面白く読みました。「滝川夫人みたいな人っているよね」と妙にリアリティを感じました。彼女は自分が抱える寂しさと向き合えない人だったのかな。絢子の嫁とのしての苦しい立場には不安しかなかったけど、最後は大団円。あの一騒動があって、控えめだった絢子は強くなった気がします。2016/08/01
じいじ
92
三島由紀夫の角川文庫シリーズは、エンターテイメント指向で、肩を凝らすことなく読めるので大好きです。今作は、その中でも群を抜く面白さでした。主人公は、良家の一人娘・絢子、そして滞りなく婚約整った良家母子家庭の長男、三人のカラミを描いた話です。とりわけ、嫁と姑の遣り取りは、どちらがキツネかタヌキかの判断はつきかねますが、メチャメチャに面白い名勝負です。嫁・夫・姑それぞれの確執を、こんなに愉しくじっくり読ませてくれた三島由紀夫に脱帽します。2021/12/28
とくけんちょ
60
久しぶりに読み終わりのゾクゾク感。いい本を読みました。この上流階級の煌びやかな世界観はそうそう味わえない。社長令嬢が上流階級のイケメンに嫁ぐ。そして、嫁姑問題が勃発する。というと下世話な話だが、三島由紀夫はそうはならない。そして、この結末。相変わらず三島作品は、女性が立っている。そして、この作品で能力主義について、再考するとは思わなかった。満足。2021/12/13