出版社内容情報
清水寺の稚児としてたくましく生きる花月。ある日、自分を売り飛ばした父親が突然面会に現れて……(表題作「稚児桜」より)能楽から生まれた珠玉の8篇を収録。直木賞作家が贈る切なく美しい物語。
内容説明
清水寺に暮らす稚児の花月は、僧侶ばかりか門前の者にまで可愛がられる人気の存在だ。一方、同じ年の百合若は、勤めにも慣れないばかりか、いじめられる日々を送っていた。そんなある日、息子を探しているという男が訪ねてきた。左衛門と名乗った男は、どうやら花月の父親のようだ。迎えが来た花月を羨む百合若だったが―(「稚児桜」より)。表題作を含む、能の名曲に着想を得た全8作を収録した珠玉の短編集。
著者等紹介
澤田瞳子[サワダトウコ]
1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、同大学院博士前期課程修了。2010年に『孤鷹の天』でデビューし、同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。12年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、13年に第32回新田次郎文学賞を受賞。16年に『若冲』で第5回歴史時代作家クラブ賞作品賞と第9回親鸞賞を受賞。20年に『駆け入りの寺』で第14回舟橋聖一文学賞を受賞。21年に『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
クプクプ
77
本書は能がテーマで8話からなる短編集で雑誌連載のため、澤田瞳子さんに文字数制限が与えられた作品です。表題作の「稚児桜」や、最後の短編の「照日の鏡」がよかったです。人間の欲望や運命が尖って描かれ、自分を重ねて楽しめました。自分が普段、人間として当たり前だと思っていたことも改めて再認識する読書になりました。文字数が少ない割に文章が凝縮され、やや重たい読み心地でしたが、澤田瞳子さんと年齢の近い私には、文章の意味がわかり、個性的な作品として成功していると感じました。2023/05/19
けやき
47
能の名曲から着想を得た短編集。能は門外漢なので分からないが良質な時代小説を楽しめた。能を知っていればより楽しめるだろう。ある僧侶が猟師の妻に絡めとられていく「猟師とその妻 善知鳥」が1番よかった。どうしようもない運命にあらがおうとする人々の話でした。2023/04/08
エドワード
36
能の幽玄なるテンポは、観る人をして眠らしめる。序破急と呼ばれる筋立てに四番目のヒネリを加えた、アイデア満点の能楽ものがたり。刀剣造りの「小鍛冶」は、刀が出来てめでたし、で終わらない。「善知鳥」「雲雀山」「班女」も形見の品や恋しき人に逢えてめでたし、で終わらない。その後の切った張ったの人間ドラマが想像力豊かに描かれる。「葵上」に登場する悪霊祓いの照日の前と憑坐役の少女のセリフ「生霊なぞこの世にいないのではないか」に仰天する。今でこそ伝統芸能である能も、中世には恐らく、観客をして笑わせ泣かせたに違いない。2023/05/05
ひさか
27
月刊なごみの連載(2017年7月~2019年6月)「能楽ものがたり」をもとに加筆して2019年12月淡交社刊。加筆修正し、2023年3月角川文庫刊。やま巡り-山姥、小狐の剣-小鍛冶、稚児桜-花月、鮎-国栖、猟師とその妻-善知鳥、大臣の娘-雲雀山、秋の扇-班女、照日の鏡-葵上、の8編の時代小説。元の能楽のイメージを借りた澤田さんの哀しいもの、滑稽なもの等々の喜怒哀楽多彩な展開が面白い。小狐の剣あたりが楽しくて好み。2023/05/30
Y.yamabuki
24
能の演目を下敷きにした創作短編。人の本性、人の業を描いてなお味わい深く、巧みな筆致に魅力される面白い作品だった。解説から元の能の演目とこの作品の関係がわかり興味深い。能には登場する幽霊、草木の精などが現れず、あくまで人間の物語として描かれているため結末の趣が変わってくるようで、余りハッピーエンドではないことに成る程と得心した。記されている能の原曲について調べてみようか。2023/06/08