出版社内容情報
降田 天[フルタ テン]
著・文・その他
内容説明
老老詐欺グループを仕切っていた光代は、メンバーに金を持ち逃げされたうえ、『黙っていてほしければ、一千万円を用意しろ』と書かれた脅迫状を受け取る。要求額を用立てるために危険な橋を渡った帰り道、へらへらした警察官に声をかけられ―。第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した表題作「偽りの春」をはじめ、“落としの狩野”と呼ばれた元刑事の狩野雷太が5人の容疑者と対峙する、心を揺さぶるミステリ短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
246
狩野雷太、警察官にしてはただ者ではないと思ったが、やっぱり曰く付きの警察官だったか。元刑事というね。しかも“落としの狩野”という異名つき。古畑任三郎を彷彿させる洞察力は見事。しかもこの男、間違いや誤りを素直に認め、しっかり謝れる。なんともナイスガイな男だ。狩野雷太に魅了され、心を躍らされた。容疑者と対峙するシーンが楽しみでページをめくる手が止まらなかった。彼のパートナーのみっちゃんもなかなかの者だ。冷静で忍耐力もあり、こちらも魅力的だ。今作は短編だったが、長編もあるということなので、長編も読んでみたい。2021/11/30
いつでも母さん
195
狩野雷太シリーズはここから始まったのだ。紛れもなく狩野雷太の推理短編5話。面白く読んだ。ラスト2話は連作になっていた。芸術家って怖いねが正直なところ。狩野が交番のお巡りさんでいる訳が読めてスッキリするものの、こんなお巡りさんは犯人側にしたらイヤだろうなぁ(笑)犯人でなくても私の傍にはいてほしくない感じ。だって全て見透かされていそうだもの(汗)『朝と夕の犯罪』を先に読んでしまったが、これから読む方はこちらから読むのを勧めたい。2021/11/08
ガチャ
104
神倉駅前交番は今日も忙しい。 狩野雷太は警察官にしてはやや髪が長く、表情にも口調にもしまりがなく、軽薄な印象を与える男だがかなりの切れ物。 かつて刑事だった頃は「落としの狩野」とも呼ばれていて。 彼にかかれば、悪さをした人は自白させられてしまう。毎日どれほど人を見て、どれほど町を把握しているか。その力を見くびってはいけない。 「おまわりさんを舐めるなよ。」 には納得です。誘拐に詐欺に、悪いことしたら 決して逃れることはできないのです。 おまわりさんにはいつも感謝ですね。2022/10/30
オーウェン
82
倒叙ミステリなのだが、解決するのが交番の警官というのは新鮮なアイデア。 元刑事の狩野雷太が犯人と対峙して、会話の端々や表情の変化などから追い詰めていく。 特に表題作はよく練られていて、詐欺グループの1人が1千万を手に入れるのだが、そこでハプニングが。 もちろん狩野が解き明かすのだが、その犯人の裏で起きていた事実にも驚く。 4話と5話は狩野が刑事から交番勤務になぜ変わったのかのエピソード。 犯人の思惑と、それをいかに見破るのかの駆け引きが面白い。 このキャラは非常に秀逸なので、続編がぜひ見たい。2022/09/07
のんちゃん
76
交番勤務の警察官、狩野がその卓越した思考で、犯人の隙をつき、犯罪を暴いていくミステリー。5話からなる短編集。どの話も犯人の行動から話が入り、先に犯人がわかる倒叙ものという作り。故に犯人の、犯行がバレてはいけない心情が、狩野との会話の中で痛いほどわかり、こちらも手に汗握る読書となった。ずっと読みたかった作家さん。本作は入り口としては軽く読め良かった。題名になっている作品が日本推理作家協会賞短編部門を受賞している。肯ける出来栄えだと納得。2021/10/03