内容説明
人工海岸で起きた陥没事故。市の責任わ問う事故調査委員会が発足した。元刑事で市職員の黒木は、市長の特命で独自調査を担うことになる。だが、それは隠蔽のための材料集めに過ぎなかった。忖台と怠慢にまみれた市政の腐敗から目をそらそうとする黒木だが、被害者家族の切実な想いに触れ、自らの手で市への信頼を取り戻すと決意する。真相を明らかにし街を再生させることはできるのか?組織に生きる全ての人に贈る魂の物語。
著者等紹介
伊兼源太郎[イガネゲンタロウ]
1978年東京都生まれ。上智大学法学部卒業。新聞社勤務などを経て、2013年に『見えざる網』で第33回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんたろー
163
市が管理する人工海岸で陥没事故が起こり少年が意識不明の重体に…責任回避の為に特命で動く黒木は、刑事を退職して市職員になった訳アリの男…無気力な黒木に段々と火がついてゆく過程が良い(中盤まで少々緩いが後半はテンポアップ)。伊兼さんにとってデビュー2作目らしいので、若干の雑さと纏まり切れていない感はあるが、登場人物たちの背景や心情は上手く書き込まれていて感情移入し易いのが好き。サスペンスを楽しみつつ「仕事に向き合う姿勢」「信頼できる仲間」などを考えながら熱くなれる部分も多く、やはり肌に合う作家さんだと思えた。2020/10/26
ケイ
109
本を閉じた時に表紙が目に入る。ああ、あのシーンの黒木だな、こんな手をしていたんだなと思う。責任はどうとるのか、そのひとつを作者は示してくれる。権力と政治と金、いわゆる利権というやつだな。しかし、志はあるのだ。この作品の中で、愚直さを誇る2人がいた。本当にそう。愚直に勝るものは無いと、ふた周り以上も歳が離れた人たちと研究をするようになって、私は体感している。伊兼さんの作品はどれも安心して読める2023/05/29
Kazuko Ohta
18
人工海岸を歩いていた子どもがいきなり砂に埋もれてしまうなんて、恐ろしすぎる事故。市の責任が問われないように巧く工作するよう命じられた役所勤めの元警官。興味は引かれましたが、事故調とは離れた部分の話が多くて没頭できず。シリーズものなのかと思うぐらい、周囲の人物の過去にあれこれあったことが匂わされているから、頭の中で整理するのが私には大変でした。それにしても、事故発生後に役所に苦情が殺到するばかりか、被害者を責める人がこんなにも多いとは驚きます。きっと本の中だけの話ではなくて、実際そうなのでしょうね。無念。 2020/09/17
ガブリエル
12
指示がなかった、前例がなかった、私は間違ってない、私に責任はない、、、見て見ぬふりの事なかれ主義、お役所仕事の数々にゲンナリしページを捲る手が鈍くなる。聞き取り調査を進めるに従って明らかになる市職員の怠慢と腐敗。そんな中、少数でもこれではいけないと行動を起こそうとする者たちがいることに救われる思い。もちろん、こんな腐り切った自治体はないと信じたいけど、巨悪とは違って市役所という我々に身近な組織の、それも不作為による問題だけに胸が苦しくなる。 ラストも爽快感はあまりないかな‥‥。 2021/06/20
キムチ猫屋
8
幼き命を犠牲にしても尚、浅ましいまでの保身。それに立ち向かう黒木、黒木を慕い支えようとする者達。こういう泥臭い感じが良い。自分が生まれ育った町を好きになれるのは、もっと良い。2022/08/09