出版社内容情報
江戸川乱歩が激賞した表題作をはじめ、中篇3篇を収録。
明治30年代、美貌のピアニスト・井ノ口トシ子が演奏中倒れる。死を悟った彼女が綴る手紙には出生の秘密が……。(「押絵の奇跡」)江戸川乱歩に激賞された表題作の他「氷の涯」「あやかしの鼓」を収録。
内容説明
明治35年、東京、丸の内演芸館。美貌のピアニスト・井ノ口トシ子が演奏中、喀血して倒れた。自身の命が長くないことを悟ったトシ子は、同い年の歌舞伎役者・中村半次郎に宛て、身の上話を綴った長い手紙を送る。彼女の出生に隠された秘密とは?「押絵の奇蹟」江戸川乱歩をして「グッと惹きつけられてしまった…私は読みながら度々ため息をついた」と言わしめた表題作の他、「氷の涯」「あやかしの鼓」を収録。
著者等紹介
夢野久作[ユメノキュウサク]
1889年福岡県に日本右翼の大物、杉山茂丸の長男として生まれる。幼名杉山直樹。夢野久作とは福岡の方言で「夢想家」の意。慶應義塾大学文学部中退。禅僧、農園主、能の教授、新聞記者と、種々の経歴をもち、1926年「あやかしの鼓」を雑誌発表して作家生活に入る。36年春、47歳の生涯を終えた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ナマアタタカイカタタタキキ
74
いずれも手記や書簡等の形式をとった一人称の作品。どの話にも蠱惑的な女性が登場する。それぞれおどろおどろしくありながらも妖艶、不気味ながらどこか甘美な雰囲気が漂う三作。『あやかしの鼓』は、この完成度でなんと処女作とのことだが、江戸川乱歩氏はあまりこの作品を評価していないらしい反面、表題作を絶賛していたとか。どの作品も文章のテンポ感が素晴らしく、読者を引き込む力が凄まじい。そういった意味では中間小説的と感じる(巻末の解説には全く異質なものだと書いてあるが)。この作品集に限らず、著者の魅力のひとつかもしれない。2021/12/28
藤月はな(灯れ松明の火)
60
お目当ての本を発売日に買いに行ったときに見つけてちくま文庫の全集で読んでいたのに買っちゃいました^^;『氷の涯』はヘたれで自堕落だけど妙に肝が据わっている主人公が状況にあれやこれやと流されてしまう状況がなぜか笑えてくる不思議さがあります。『あやかしの鼓』は人を破滅させる鼓を主軸に、妙に艶めかしい要素が絡み合うミステリアスな雰囲気がたまりません。そして表題作や『瓶詰地獄』、『ドグラ・マグラ』といいやっぱり、夢野久作は妹フェチなんだという認識が脳内を離れない・・・。2013/11/09
そら
37
「あやかしの鼓」「氷の崖」「押絵の奇蹟」の3編。「あやかしの鼓」は既読だったので、他の2編を読んだ。「氷の崖」は、ロシア在中の日本兵がスパイも絡む事件に巻き込まれる話。人の話だけで真相が明らかになっていくし、二転三転するしちょっと話が分かりにくかった。ラストはいかにも。乙女チック♪「押絵の奇蹟」は分かりやすかったし、引き込まれて一気に読めた。しかし、そんな非科学的なところにもっていくか〜(笑)そう思い込みたいんじゃないの?2023/11/12
多田幾多
32
どの作品も能筆で美しい。特に『押絵の奇蹟』が一番そうだ。妖しい雰囲気を醸し出しつつ、幻想的で静謐さ、そしてロマンさを醸し出し、読んでいてその匂いに酔ってしまいそうになった。ドグラマグラのうな心理遺伝や、美しい女性、更にジワジワとくる読後感…ドグラマグラを読む前に、是非コレを読んで、そしてこの本が気に入ったなら、ドグラマグラを読んで欲しい。2014/01/25
おにく
31
夢野久作は中編も秀作ぞろいですね。軍の公金横領事件に巻き込まれた一兵卒の推理を描く“氷の涯”は、推理と真実、そして更に虚偽の真相が加わって、事件は思わぬ方向へと進んでゆく。推理、活劇、決死の逃走劇。タイトル回収のラストが秀逸です。そして表題作の”挿絵の奇蹟”も、狂気がじわじわと押し寄せ、短編では出せない味わいがあります。血の繋がらない兄に恋い焦がれる余り、次第に手紙の文面は乱れ、支離滅裂なものになってゆく。やはり幽霊より人の狂気が一番怖いです。2024/04/13