出版社内容情報
妻は愛がないと嘆き、別れたいという。しかし言葉の裏に、別れたくないという気持ちが透けて見える。史上最悪の夫婦、すれ違う世界感。愛と依存の連鎖はどこまで続くのか――。
内容説明
冬、ウィーン。口論の絶えない夫婦、多喜子と康司。無謀から大怪我をした妻は、心配をしない夫を詰る。「人が苦しんでいる時に責めるあなたとは、話ができない」。干渉を迷惑、実害とする夫に、妻は愛がないと嘆く。しかし、別れたいという言葉の裏に、別れたくないという気持ちが透けて見える。ああ、ひとりになりたい。己が一番大切なのは、自分なのだ―。自己愛と依存、夫婦の相克を細部まで描いた、著者初めての小説。
著者等紹介
中島義道[ナカジマヨシミチ]
1946年、福岡県生まれ。東京大学教養学部並びに法学部を卒業。77年、東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。83年、ウィーン大学哲学科修了。哲学博士。元電気通信大学教授。専攻は時間論、自我論、コミュニケーション論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
22
『私の嫌いな10の人びと』など多数の著書を出す、哲学者・中島義道が描いた初めての小説である。ウイーンを舞台に、48歳の主人公夫婦が息子をキーにした相克を描いた小説。疲れるモヤモヤした気持ちの読後感だ。感動する場面はまったくなく、唯々悲しい、辛いシーンの繰り返しに叩きのめされた。夫の「家族への接し方」を著者は問うているような気がする。エンターテイメント性がまったくない小説を読むのもタマにはいいのかもしれない。これは中島さんの「私小説」なのでは・・・という気もしている。2014/10/23
D21 レム
16
まとわりつくような妻にうんざりした。愚痴を言い続け、自分の不幸を夫のせいにして、それに子供も巻き込もうとする母や妻。それでも、夫である主人公は家族に何かを求めている。夫婦は愛し合っているという常識が、実は希有なことなんだと思った。自分の理想や愛に縛られるから、つらくなる。もう愛はいいんじゃないか、一人ひとり生きて行けばいいのかも。困った時には助け合えばいい。しかし、これは「人を愛することはしない」夫目線で描かれていて、妻の目線で書くとどうなるのかな???あとがきでは、妻が気の毒だと書かれていた。ん?2015/05/16
lily
3
夫婦、家族間の愛の確執と心理描写をこれほど誠実に忠実に書かれた私小説は出会った事がない。カフカと同じく死後100年後に再燃しそうである。2019/01/25
Asdf_QwertyZ
2
ウィーンでの生活が綴られていた。やはり中島先生の筆致は好きだ。2021/03/10
PPP
2
★★★☆☆(平成25.3.25)「無意味に生きて、その挙げ句いつか無意味に死ぬだけだ。」母を憎み、家族を憎み、そして空虚な人生観を持ち自己愛を貫き通す康司。“解読不能な変人”に苦悩させられた挙句、“神”に愛を求める妻・多喜子。どこまで行ってもすれ違う二人の重苦しい空気が充満し続ける。大概の人は〝自己愛=悪〟と評して押し隠そうと努力するが… 康司は勇敢⁈にも堂々と主張して、他人を傷つけ、嫌われる。<ひとを愛することができない人間は、生きる資格がないのか?> 愛とは何かーー を問い続ける。2018/05/15