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出版社内容情報
『飛ぶ教室』ほかの作品で知られる、ドイツの作家の伝記決定版! 貴重な写真資料を40点以上収録。解説・今江祥智。 中学生から
内容説明
若い世代にとって、ケストナーは、もはや社会ロマン派の作家であり、児童文学作家にすぎなかった。彼らには、なぜケストナーがナチスに禁じられたのか、わからなかった。ケストナーの全体像は、学校でも家庭でも、教えられることはなかったのだ。今日のケストナーといえば、児童文学作家としてしか確立された地位を得ていない。だが、それだけでは、今世紀最大の時事評論家として活躍してきたケストナーに対する、十分な評価とはいえないだろう。激動の時代を生きのびて、人々に自由と平和の意味を訴え続けた、作家の生き方。ドイツ児童文学賞受賞。
目次
ドレスデンに生まれて
子ども時代
大砲の花咲く国
ひとりぼっちの幸運児
天使のいたずら
ベルリン
小さな執筆工房
『エミールと探偵たち』の誕生
燃えている
冬眠〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆう
18
ケストナーの伝記。主にナチスに執筆を禁じられながらも亡命せず、国内にとどまり続けた12年間にページを裂く。児童文学、演劇評論、詩人、脚本、小説、エッセイなど、多才な顔をもつ作家だったことに驚く。脚本を担当した映画が大ヒットするなど、何においても大衆に好まれた作家だった。そこには一貫して個人の側に立ち、物事をまっすぐに見つめ、ユーモア(時にはそれと紙一重の皮肉)を失わずに筆を取り続けた作家の姿が。表現せずにはいられない人だったのだろう。それだけに、ナチスに執筆を禁じられた12年の歳月が、あまりにも悲痛で重い2019/04/30
ぱせり
15
ケストナーのナチ体制化の生き方に圧倒され、彼のもっている性格の弱みさえ深みに感じる。「たとえどんなに深くココアの中に沈んでも、それを飲んではならぬ」という言葉が印象に残ります。同時に、戦前・戦中・戦後のドイツの人々の姿が浮かび上がります。「ベルリン」三部作のサイドストーリーのよう。2009/12/09
フム
14
ヒトラーが首相となった1933年、ケストナーは書くことを禁じられた。それからの12年亡命することを拒否し、ドイツに残ることで時代の目撃者であろうとした。それは生きのびるのに綱渡りの日々であり、実際二度にわたる逮捕から釈放されたことは奇跡だ。そして終戦…だがケストナーは12年間のナチス時代を題材にした小説を書かなかった。戦後のドイツ人が自分達の過ちからなるべく目をそらそうとし、むしろナチスの犠牲者であると思いたがっていることもケストナーは見逃さなかった。それを変えていかなければという思いで晩年のしごとがある2017/07/15
Alm1111
12
作者は岩波少年文庫「ベルリン1919」シリーズを手がけたクラウス・コルドン。ドイツの戦前〜戦後ならお手のものだろう。取材に基づく戦争前後のドイツの描写は迫真に迫っており、ケストナーがいかに異常な社会を生き延びたのかが伝わる。本を読んでケストナーの書いた児童文学は彼のクリエイティブ全体のほんの一部であると知った。でも後世に遺ったのが児童書だったというのも決して不名誉な事ではないはずだ。児童書こそがクリアに簡潔に作家や人間の本質を切り取ることがよくあるからだ。表紙はケストナーが生まれた家。図版も多い。2025/04/26
ムーミン2号
12
ベルリン三部作のクラウス・コルドンによるケストナー評伝で、ケストナーが不倫の子であったり、マザコンであったり、というようなことも包み隠さず記している。ケストナーの児童文学にそれらが色濃く反映されていると確認できるが、そんな三面記事的なことを暴くことが目的の本ではないのは読めばすぐにわかる。人間に何が必要かを常に発信し続けた作家であり、我々がそれを忘れがちだということを感じないわけにはいかない。文学上のみならず、社会を鋭く見るということでも天才であったと思わされた。2020/08/04