内容説明
水色のオーバーを着た男の子を見かけたぼくにつぎつぎおこるふしぎなできごとをえがく「水曜日のクルト」ほかかくれた名作「めもあある美術館」など六編を収録。江戸川乱歩賞受賞のミステリー作家仁木悦子として知られる著者による、珠玉の童話集。小学中級から。
著者等紹介
大井三重子[オオイミエコ]
1928年東京都に生まれる。4歳のとき病気にかかり、以来独学。26歳ころより童話の創作を始め、懸賞小説に応募入選。推理作家としての作品も多い。筆名は仁木悦子。1986年没。著書は少年少女推理小説『消えたおじさん』、推理小説『猫は知っていた』(江戸川乱歩賞受賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
113
水曜日になると売れない絵描きの周囲で不思議な出来事が起きる。それは水色のオーバーを着た男の子のしわざ。『水曜日のクルト』は水曜日に生まれ、そして水曜日に死んでしまった。いたずらが成功して笑ってる姿は可愛いんだけどね。江戸川乱歩賞作家・仁木悦子さんが別名で描いた6つの童話。昭和30年前後の作品とは思えないほど、おしゃれでファンタジックで、切ない。ハートフルな『めもあある美術館』『ある水たまりの一生』が良かった。悲しい結末の『血の色の雲』は、二人の兄を喪った戦争への憤りを書かずにいられなかったのかも知れない。2016/01/11
東谷くまみ
41
大井さんってとても素敵な人だったんだろうな。きっとこの作品は大井さんの心そのもののような気がする。幼少時に胸椎カリエスを患い寝たきりになった大井さん。病気は彼女の身体的な自由を奪ったかもしれないけど、心の自由は奪えなかったんだろうな。「めもあある美術館」「ある水たまりの一生」「ありとあらゆるもののびんづめ」が特に好み。ここではないどこかの美術館、真っ青な空の上、金物屋さんの2階に住む魔法使いのおばあさんの元へ…縦横無尽に大井さんの心は飛んでいく✨優しくて明るく夢に満ちた、温かいお話が詰まった童話集💞2022/06/15
ぶんこ
31
仁木悦子さんの童話です。 人間として大事なこと、欲張らずに地道に生きる人々が素敵でした。 「血の色の雲」は、実在のお兄様がモデルとなられていて、戦争で亡くなられてお兄様への思いが詰まっていました。 仁木さんの作品に、兄と妹が主人公の探偵ものがあったのを思い出しました。 2014/08/09
Yu。
27
持ち物が無くなるのと謎の子供の出現との繋ががりのドラマになんともいえない温かみを覚える「水曜日のクルト」。みんなみんな、自身を写す美術館があるのだ「めもあある美術館」。たかが水たまり‥されど水たまり‥ だがここまで人を感動させる水たまりの物語があろうとは‥「ある水たまりの一生」。魔法って諸刃の剣だけど、使い方次第で皆を幸せにするの‥「ふしぎなひしゃくの話」。作中唯一の悲劇が描かれる本作は、実体験なんだね‥「血の色の雲」。心からそうしてあげたいって思える事はなによりも美しい「ありとあらゆるもののびんづめ」⇒2019/08/14
マーブル
15
小さな幸せを、充分に感謝して受け取り、身に余る分は他人に分け与える。幸せは決して多くを所有することでもなく、まして人から奪い取って作られるものではない。 全編を通してそんな作者の想いが感じられる。 どのお話もよいのだが、一見地味な存在である「水たまり」を主人公にした話が特に良かった。 水たまりが向ける世界への賛美。それは神への感謝の気持ちとも言える。作者の気持ちと共通するのだろう。水たまりという、迷惑でこそあれ、その気持ちなど考えることのない存在に向ける視線。それ自体が作者の特徴的な立場。 2022/03/17