内容説明
鎖国体制が揺らぎ始めた江戸末期。浪人となった相田総八郎とその妻なみは江戸・神田三河町に移り住む。共に帰封をめざしながらの貧しくも温かい生活の中、なみは総八郎の子を身ごもるが…。裏店に生きる人々の悲哀を、丹念に情感たっぷりに描いた傑作長編時代小説。
著者等紹介
宇江佐真理[ウエザマリ]
1949年生まれ。1995年に「幻の声」でオール讀物新人賞を受賞、2000年に『深川恋物語』で吉川英治文学新人賞を受賞、2001年に『余寒の雪』で中山義秀文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
時代小説大好き本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
86
これは、北の大地の生まれ故郷を懐かしむ〈望郷〉の物語。主人公なみは、行方知れずの夫を探そうと江戸へ。そして、浪人に身を落とした夫と涙の再会をします。若い二人の江戸下町の長屋生活の物語。ある日、なみに望まない赤子が…。「夫のまたの召し抱えが決まるまでは、子は産めない…」となみは悩みます。しかし、……。下町の人々の温かさに心を打たれます。宇江佐さんが若くして旅立たれてしまったので、もう新作が読めない哀しさ、悔しさがあります。でも、何度でも読み返したい傑作をたくさん残してくれたので、それは我慢します。2022/05/15
ぶんこ
61
宇江佐さん松前藩を題材にした物語を数編読みました。 著者の松前藩に対する愛情がふつふつと伝わってきました。 特に蠣崎波響に対する尊敬の念を感じました。 今回は梁川に移封された松前藩からリストラされた総八郎と、梁川から江戸へ夫を探しに来た妻のなみ。 この夫婦を核とした神田の長屋の人々の人情が描かれていました。 江戸の長屋の良い所が充分に描かれていて、住んでみたくなるから不思議です。 お米さんが素敵でした。 2016/01/14
kei302
56
長屋の女性たちが個性的で、たくましい。 「自分も露草のように江戸の片隅でひっそりと咲いていよう。そうすれば、誰かが気づいてくれる」、江戸に出てきて初めて露草の存在に気づいた控えめな なみが次第に長屋のおかみさんに、露草から坐禅草のように変わってゆくのが読んでいておもしろかった。 2022/01/05
はつばあば
55
しみじみと人生を感じます。順調満帆に過ごしてきても会社の都合で左遷となったり職を失ったりと今の時代に通じるものがあります。現在では賂を渡してももらっても罰せられますがばれるとは思わないのでしょうか。松前の住人が江戸に出てくるだけでも大変。婿殿は広い江戸のどこにいるのかもわからない、大した女ですなみ殿は。そんななみと裏長屋の女達、そして娘が産まれたことにより住人との暖かい物語となっていく。望郷の思いもわかるが幸せっていうのは必死に生きてきた場所じゃなかろうか。それにしても史実に基づいての作品読み応え有りです2023/10/13
ユメ
43
1804年、蝦夷地が対露政策として幕府直轄領とされたことによって梁川へ移封となった松前藩は、1821年に蝦夷へ帰封となる。その行間にあった松前藩士の暮らしを掬い上げる宇江佐さんの眼差しがたまらなく好きだ。召し放ちによって浪人となり、慣れない江戸で長屋暮らしをする総八郎とその妻なみ。この夫婦にも、長屋の他の住人にも、生きることの悲哀が漂っている。と同時に、どんな逆境でもたくましく生き抜く明るさも感じるのである。望郷の念に胸を焦がしながらも、江戸で露草のようにひっそりと咲こうというなみの気概に勇気付けられた。2019/04/23
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