内容説明
人が「銭金の問題じゃねえだろッ。」と怒るとき、実際のことの発端はやはり銭金の問題なのである!孤高の私小説家が、貧乏、借金、挫折、嫉妬など、欲望渦巻くみずからの金がらみ人生を赤裸々に綴る表題作ほか、一大不況の時代を乗り切るための救済と覚悟を示したエッセイ集。
目次
金と文学
金と恋
銭金について
痩我慢
私の喪失感
忌まわしき時代
時のかたち
飾磨川
だら
心の中の「いちばん寒い場所」について〔ほか〕
著者等紹介
車谷長吉[クルマタニチョウキツ]
1945年兵庫県生まれ。慶応義塾大学文学部卒。広告代理店、出版社勤務を経て、調理場の下働きなどをしながら関西各地を放浪する。72年、短篇小説「なんまんだぁ絵」を発表。92年、はじめての短編集『塩壷の匙』を刊行、同作で芸術選奨文部大臣新人賞と三島由紀夫賞を受賞する。『漂流物』(平林たい子文学賞)、『赤目四十八滝心中未遂』(直木賞)、『武蔵丸』(川端康成文学賞)など著書多数
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
4
車谷長吉氏は「私(わたくし)小説家」である。少なくとも、以前まではそうだった。車谷氏が「私」という一人称を用いるとき、そこに展開されるのは壮絶な「業さらし」の文学である。とはいえ、私小説家が描く「私」とは、あくまでカリカチュアライズされた「私」のことだ。戯画化された「私」。それを失念したまま、車谷氏の「業さらし」に安易な癒しを求めるのは、彼の術中にまんまと嵌ることに他ならない。意外としたたかなのだ、この人は。僕はむしろそこに車谷氏の「悪」を感じる。そこに惹かれている。2009/08/31
ウチ●
2
主に文芸誌等に掲載されたエッセイを編んだ作品。車谷氏の持論が繰り返されるが、時期によって躁期と鬱期が読んで取れる。基本、「小説を書くという悪事」を成すことは「人一人殺す位」エネルギーを要することなのだと。氏の小説を読むとその毒気に充てられることもしばしばであり、読み手のエネルギー消費も中々のものだが、エッセイ集としては本作の毒気はかなり強め。今回、旅本として持参、読了したが生憎の雨模様に夜、宿で読んだ記憶は暫くは残ることとなりそうだ・・・2017/07/10
Lieu
1
慶應を出た「のに」無一文になったりと色々苦労した話を何度もされると、日本の文学の下降趣味的体験主義と、藝術における「真剣な遊び」(トーマス・マン)への軽蔑の伝統を見るようで、ある反撥を覚える。だが『島崎藤村の憂鬱』の小説虚実皮膜説は、この人の文学論として意外であり、しかし蒙を啓かれる思いであった。2021/12/27
みえのさ
0
人間の欲望をありのままにむしろ露悪的にと言ってよいほどあけすけに書いているのだが、読みすすむうちに涙が滲んできてしみじみと生きる意味に思いがいく。著者のある意味清廉な魂に触れたような気がするのである。2014/11/11
Tonex
0
朝日新聞の人生相談「悩みのるつぼ」を読んでこの人に興味を持ち、読んでみた。車谷長吉という人はこういう人だったのか。面白い。まだこの人の小説は一冊も読んでいない。次は『鹽壺の匙』を読んでみよう。2013/07/27