内容説明
父と歩いた坂道、映画少年だったころ、パルチザンの記憶…。心の中にいつも在る遠い過去の風景をリリカルに描いた、カルヴィーノの“自伝”的小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tama
8
図書館本 イタロ・カルビーノ馴染みあって。 学生時代にまっぷたつの子爵と木登り男爵をするすると読んだ記憶があり、久々に読んだがあれれな感じ。こんなに一杯いろいろ盛り込んでたっけ?とはいえ、「公益のゴミ箱」はサンジョバンニとつながるところや、夫の立場から始まって移民の就業にまで話が広がるなど、読みようによっては筒井的雰囲気にも。最後の、不透明なところから、は奇妙な改行・段落が気になって読み込むまでに至らず。ふう。2018/12/13
maimai
5
「書かれなかった“自伝”」という副題がついているし、訳者による巻末の解説も、その「自伝」というワードを念頭にまとめられているが、第一人称〈わたし〉によって語られているということを除けば、必ずしも「自伝的」ではない。むしろ「ある戦闘の記憶」「公認のゴミ箱」などは、『柔らかい月』第3部「ティ・ゼロ」の作品群と同じ方向性を持った小説的試みという方が近い。カルヴィーノの熱心な読者には興味深いところも多々ある本だが、それ以外の人にはお薦めしない。2022/11/08
roughfractus02
5
作者急逝後編集された「書かれなかった自伝」である本書は、間接的技法を駆使した作者を垣間見せる。父が歩いた道を歩きつつその隔たりを語り(第1章)、映画製作に関わりながら常連客(Goer)として接し(第2章)、戦争を身近な出来事として回想し(第3章)、大都市パリをゴミ箱に見出す(第4章)。それらは幾何学や数学で明晰に論じるほど不明瞭さ(Opaque)が際立つのに似ている(第5章)。自らの既刊小説めいた文体を各所に匂わす本書は、寓話の使い手である作者が自伝を書いても自己を直接語ることはしないだろう、と思わせる。2019/03/12
コウ
0
カルヴィーノの言葉の背後にある沈黙。その秘密が少しだけ分かった気がします。★★★☆☆2008/04/20