出版社内容情報
人気作家・みはるは講演旅行を機に作家・白木と男女の関係になる。一方、白木の妻・笙子は夫の淫行を黙認、平穏な生活を送っていた。だが、みはるにとって白木は情交だけに終わらず、〈書くこと〉を通じてかけがえのない存在となる。父と母、瀬戸内寂聴をモデルに3人の〈特別な関係〉に迫る問題作。
内容説明
小説家の父、美しい母、そして瀬戸内寂聴をモデルに、“書くこと”と情愛によって貫かれた三人の“特別な関係”を長女である著者が描き切る、正真正銘の問題作。作家生活30周年記念作品。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961年生まれ。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞、2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で直木賞、11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、16年『赤へ』で柴田錬三郎賞、18年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
605
井上荒野自身の父である井上光晴と母、そして瀬戸内晴美(寂聴)との三角関係をテーマに、みはる(なんという見え透いたアナグラムか)と笙子のそれぞれの一人称語りで綴った長編。こんなものを書く営為はさすがに作家の業かとも思う。荒野(作中では海里として登場)の描く光晴は「遅れてきた無頼派」といった印象である。篤郎は、みはるにも笙子にも、そして海里にも突き放されているように見えて、実は彼らの全てに許容されてもいるのである。もっとも、「全身小説家」と称された光晴の娘、荒野もまたその血を受け継いでいるかも知れないが。2021/12/27
ミカママ
555
存命であられる寂聴先生と自らの父の不倫を暴く、しかも寂聴先生に帯まで書かせるのだから、牙を抜かれたような内容になってしまうのは仕方ない。なにより、わたしは光晴氏や若いころの寂聴先生の画像を検索して、いきなり萎えた。すまん、不倫はやはり、美男美女のものであるからこそ、作品になり得るのである。単なる性欲旺盛、そのくせ小心でウソつきなオッサンの物語。不倫相手の家族との仲良しごっこも、わたしの理解を大きく超える。これが作品の肥やしとなるのだ、と言われれば勝手にしてくれ、だな。2019/03/23
starbro
413
井上荒野は、新作中心に読んでいる作家です。井上光晴と妻&瀬戸内寂聴の不倫愛憎劇、私小説、堪能しました。現在だと文春砲等で泥沼になりそうな気がしますが、昭和の時代は鷹揚だったんでしょうね。出家は世俗との縁を断ち切るイメージがありますが、愛人が出家する時の男の気持ちはどうなのでしょうか?本作ではあまり触れられていません。2019/04/29
鉄之助
401
まず、寂聴さんに帯大賞をあげたい。「作者の父 井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった」。これを見て、読まないわけにはいかないじゃないか! 実の父母と瀬戸内寂聴の三角関係を、実に見事に描き切った荒野(あれの)さんに感服した。朝日新聞出版社の宣伝文句には、「作家生活30周年記念作品」と謳われている。これを書くには、30年もの歳月を要したわけだ。時に実母になりきり、また、寂聴が憑依したようなリアル感。50歳で寂聴が出家した時のお互いの心象は、感動ものだった。 → 続く2019/04/17
風眠
296
自分の親もひとりの人間であるから、当然ダメなところもあるし、弱いところもあるけれど、じゃあ私が同じような経験をしたとして、一歩引いた目線で親のことを分析し、それを世に公表できるかと言われたら、絶対無理!改めて思うのは、作家って凄いなということ。作者の父・井上光晴のクズっぷりは、精神的弱さの裏返しだと思うし、そういう人を甘やかしてしまう、作者の母や瀬戸内寂聴の気持ちも何となく分かるし。母性本能と女の業が相まって、それぞれの不自由さから解き放たれたいと足掻く心模様が苦しい。でもそれが女、というものなんだよね。2019/03/27