出版社内容情報
フランス人司祭が1970年の夏,日本に赴任.下請けの労働現場で働く.そして,労災事故,組合結成….自由と自立した精神の大切さを身をもって示し,91年に離日.繁栄のさなかの日本を下から描いた出色の日本論.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
373
著者のアンドレ・レノレ師は、フランスからやってきたカトリックの司祭。川崎市の浅田教区の助任司祭だが、師は単に教会活動と布教のために来たのではない。労働司祭として、日本で底辺労働者と共に働くためであった。実際に彼が身を置いたのは、下請けの工場や建設作業員としてであった。それはじつに21年間に及んだ。目的は、もちろんこうしたルポルタージュを書くためではない。現場で共に働くことで、労働者が抱えている苦悩や矛盾を共にし、それを通じてキリストの教えを実践するためである。彼が離日したのは30年も前だが、日本の⇒2021/11/30
ヨーイチ
27
先人の言葉で「(書物)を身で読む」って言葉が有る。ここ数年でこの言葉を思い出す事が多くなって、濃い読書をしている訳だが、書名が「イワンデニーソヴッチの一日」と「苦役列車」と「JR上野駅公園口 」と並ぶと、流石に我が身が案じられて来る。所謂日本人論という奴は割と好きで読んでいる方だと思うが本書は知らなかった。本書も身につまされて読んだ。所謂「現場仕事」のキツさ、危険さ、がヒシヒシと伝わってくる。「バカ棒」なんてスラングが出てくるのは素晴らしい。続く2022/02/13
CCC
16
『自動車絶望工場』を仏訳したカトリック神父による下層労働体験ルポ。体験とはいっても20年フルタイムでずっと現場で就労していただけあって、肉体労働はもはや本業。外部の視点という段階はすでに通り越している。現場環境と価値観、組合の事情について詳しく、出来のよいルポだと感じた。見ないふりされている問題があからさまにされている。作者の背景も面白い。上から降りてくるタイプの神父はままいるが、そういうのとも違う気がした。与える側という意識がないからだろうか。こういう神父もいるんだなあ。2020/07/20
kamakura
6
プラド会という、労働者の中で働く司祭たちのメンバー。アンドレさんは、工場労働者の中で(低賃金)労働することだけでなく、闘う行動的な労働組合に身を置く。それは劇的な労使激突場面を観察しようというのではない。労働者階級そのものであろうとするからだ。しかも「日本の」だ。「自分は日本人じゃないので」と現場で遠慮をする外国人神父とも違う。神と共に→労働者と共に活動する時に、国籍に何の関係があろうという姿勢。だからと言って日本の「遅れた」零細企業経営者や劣悪な労働環境の中で黙っている労働者を見下すわけでは全くない。1996/08/15