出版社内容情報
アジア・太平洋戦争期に軍部の注目を集めた戦争神経症。様々な医療アーカイブズや医師への聞き取りから忘却されたトラウマに迫る。
内容説明
アジア・太平洋戦争期に軍部の関心を集めた戦争神経症。恐怖を言語化することが憚られた社会で患者はどのような処遇を受けたのか。また、この病の問題はなぜ戦後長らく忘却されてきたのか。さまざまな医療アーカイブズや医師への聞き取りから忘却されたトラウマを浮かび上がらせ、自衛隊のメンタルヘルスなど現代的課題の視座も示す注目の一冊。
目次
戦争とトラウマの記憶の忘却
第1部 総力戦と精神疾患をめぐる問題系(兵員の組織的管理と軍事心理学;戦争の拡大と軍事精神医学;戦争の長期化と傷痍軍人援護)
第2部 戦争とトラウマを取り巻く文化・社会的構造(戦場から内地へ―患者の移動と病の意味;一般陸軍病院における精神疾患の治療―新発田陸軍病院を事例に;戦争と男の「ヒステリー」―アジア・太平洋戦争と日本軍兵士の「男らしさ」;誰が補償を受けるべきなのか?―戦争と精神疾患の「公務起因」をめぐる政治;アジア・太平洋戦争と元兵士のトラウマ―地域に残された戦争の傷跡)
なぜ戦争神経症は戦後長らく忘却されてきたのか?
著者等紹介
中村江里[ナカムラエリ]
1982年山梨県に生まれる。2015年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科特任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ロングコートダディ・兎・寺・堂前
74
戦後20年程で、「もはや戦後ではない」と言った政治家がいたが、あんなの嘘である。日本は未だに戦後である。以前、鈴木邦男の『歴史に学ぶな』という好著に、戦争から帰って来て極端にキツくなった先生の話があった。戦争に行く前は優しい先生だったそうだ。きっとある年齢層の人達に戦争体験があったからこそ、教育やスポーツ、部活動や家庭等のあらゆる場面で厳しさが過剰に高評価される場面が出来上がった可能性が高い。森喜朗も川淵もたぶん戦争の余震である。戦争のトラウマやPTSDが統合失調症と誤診されている高齢者もいるそうだ。2021/02/13
おおた
28
米軍兵士のPTSDは聞くけど日本軍兵士の精神病については知らなかった。昨今戦争をしたい人が増えているようなので、ぜひ本書を読んで戦争という人を殺す場の異常さ、人間の耐えられる限界について考えてほしい。興味深いのは「戦争で死なせてはならない」と言われるほどのエリート医師が陸軍病院を経て戦後の医療に関わっていること。治療としては戦争が原因であることが分かっていながら、「皇軍は砲弾病にはならない」などと日本軍兵士は強靱な精神を持っていると喧伝していたこと。事実を隠して政策を押し通すスタイル、変わってないね。2020/03/01
おおにし
23
信田さよ子氏「家族と国家は共謀する」に大きく取り上げられていたので本書を手に取った。学術論文であるため読み通すのに骨が折れたが、信田本の引用箇所のみで要旨は十分理解できると思う。本書は戦時の兵士の精神疾患について扱ったものだが、海外派遣自衛官のメンタルヘルス問題にもつながる現代の課題でもあることに注目する必要がある。2021/12/30
ころりん
9
最も非人間的な行為である戦争。 そこには「臆病は恥ずべき感情」とか「男は女より勇敢だ」とかいう暴力的な価値観が大前提になる。 心を病むことは、戦争のせいじゃなく本人のせいで、十分な治療も、温かい関心も向けられず、家族にも迷惑がかかる行為として隠される。 「ウィークネス・フォビア」という言葉を初めて知った。 「怖がる」ことへの恐怖って、あ~あるある。 「日本男児は強い精神力を持っている」みたいな歪みが、トラウマ問題に取り組めない土壌で、今も深刻な偏見。 そして、信仰の世界にも入りやすい、非人間的な暴力構造。2018/06/21
る
8
なぜアジア・太平洋戦争のトラウマが戦後長らく忘却されてきたのか、陸軍病院や民間精神病院の記録、軍事医学の偏見、軍隊のジェンダー規範、補償制度などから考察する本。 軍隊の「男らしさ」の分析が的確で鋭い。軍隊では、女性や基準に達しない者、訓練や私的制裁に耐えられない「女のような男」の排除を通じてホモソーシャルな「男らしさ」を構築する。これは「男らしさ」が自然なものではなく、軍事主義に適合する形で恣意的に利用され、社会的・歴史的文脈の中で作られたものであることを示していると言える。2024/08/15
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