出版社内容情報
霧を吸い、吐き出す街。無蓋列車で運ばれる戦車。割れる男、足を洗う女、三本脚の犬--。九十五の断片を連ね、恐怖党の跋扈する異様な世界を現出させる表題作のほか、交合する男女が殺人の記憶を語りあう「カラスアゲハ」、刑吏の視点から〈できごと〉を眺める「アプザイレン」など、終末の風景、滅びの日々を描く中短編四作。解説=沼野充義
内容説明
霧を吸い、吐き出す街。無蓋列車で運ばれる戦車と、鯨骨のバリケード。割れる男、足を洗う女、消えた整体師、恐怖党員、老いた彫り師、隻眼の不審者―符号と化した人びとの間を、三本肢の犬が霧を縫って歩く。九十五の断片を連ねる異様な表題作のほか、交合する男女がある殺人の記憶を語りあう「カラスアゲハ」、刑吏の視点から“できごと”を眺める「アプザイレン」など、終末の風景、滅びの日々を描く中短編四作。
著者等紹介
辺見庸[ヘンミヨウ]
1944年宮城県石巻市生まれ。70年共同通信社入社、北京特派員、ハノイ支局長、外信部次長などを経て96年退社。78年中国報道により日本新聞協会賞受賞、87年中国から国外退去処分を受ける。91年『自動起床装置』で芥川賞、94年『もの食う人びと』で講談社ノンフィクション賞、2011年詩文集『生首』で中原中也賞、12年詩集『眼の海』で高見順賞、16年『増補版1★9★3★7』で城山三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hasegawa noboru
10
現実の崩壊、溶融などと概括してはいけないのだろう。が、唖然としてことばを失う現実に対して(例えば新型コロナ感染拡大下の五輪強行)に対峙するにどういうことばが可能かということをしきりに思った。<ことばはこわれていた。ことばは内部からこわれていた。意味はほとんど無意味だった。>ここまで来たら五輪中止反対もない、アスリートたちを応援するだけだというような俗情と結託した意味ありげなさかしらを作者は最も忌み嫌う。あるのはシデムシたちがはいまわる<現象と結果の縁>だけだ。古語、なまり、破格文法による造語などを交えて2021/07/16
さっちも
9
不快なはずの景色、味、音、匂い。それらが意外にも馴染んだり、好ましく思えたりする嗜好が人にはあると思う。そんな変態性をこれでもかと詩句のような文体で小説に仕立てている。「結構正露丸の匂いって嫌いじゃないんだけど」みたいな2023/03/25
魚53
3
「カラスアゲハ」「満月」「アプザイレン」と読み進めて、「霧の犬」になり、遅読がますます遅読になる。読んでいるうちに自分も霧に包まれて頭が限りなくぼんやりしてくる。謎の登場人物たち、名前は失われ、記号のようなひらがな一文字。頭がツルツルの女に足を洗われ続ける私。いつの間にか私が女になり女の足を洗う。私が他の誰かであるのかないのか、世界が存在するのかしないのか全ては霧の中の出来事。ぼんやりしている最中にも何か良からぬことが進行中のようである。無蓋貨車で戦車が運ばれ、街は荒廃。しかし、それが何かも霧の中である。2022/12/25
カケル
2
『青い花』続編、というかさらなるアップデートバージョン。吾妻ひでお『夜の魚』とも共鳴する黙示録的傑作。2023/12/05
takao
2
ふむ2023/06/28