出版社内容情報
詩人は詩をどのように読み,文字を観て,何を感じるのか.解説,片岡義男.
内容説明
誰もが毎日見ている空の下で、あの黒雲の下で、今、何が起こっているのだろう?詩人の鋭い感性と豊かな想像力から立ち現れる、誰もが気が付かなかった日常風景のなかの一場面。読む人はそこで、詩人にどのようにして詩が訪れ、また、詩人は詩をどのように読み感じているのかに、触れることができるかもしれない。フィクションとも思える、美しい日本語を通して、新しい経験へと誘う。
目次
鹿を追いかけて
道について
川辺の寝台
くぼみについて
彫像たち
花たちの誘惑
虎と生活
雑踏の音楽
日々のなかの聖性
川から来る風
水の悪意
蝉と日本語
樹木のある風景
杖をめぐって
黒雲の下で卵をあたためる
黒い瞳
沃川へ
連詩の時間
かたじけない
詩の不可侵性
きみとしろみ
ちーくーみーまー
蝿がうなるとき,そのときわたしは
縫い目と銀髪
家について
死者を食う蟹
背・背なか・背後
著者等紹介
小池昌代[コイケマサヨ]
1959年東京・深川生まれ。津田塾大学国際関係学科卒業。詩人、作家。2000年詩集『もっとも官能的な部屋』で高見順賞、01年エッセイ集『屋上への誘惑』で講談社エッセイ賞、07年短編「タタド」で川端康成文学賞、10年詩集『コルカタ』で萩原朔太郎賞、14年長編『たまもの』で泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
22
声高になにかを主張するというわけではない。熱くならないし、取り乱したりもしない。しかし、それはなにも主張していないというわけではない。むしろこの著者のメッセージは骨太とさえ言えるのではないか。出会った人、見たもの、感じたこと。そういった事柄について丁寧に言葉を紡いでいき、解きほぐしていく。だからなにかがくっきりとあとに残る本ではないのだけれど、この著者が居てくれてよかったとさえ言える確かな信頼感/安心感を抱くことができる。この著者、詩才だけではないようだ。この文庫、彼女の編んだアンソロジーも収録して欲しい2021/04/28
pirokichi
19
詩人・小池昌代さんのエッセイ28篇。詩人ならではの眼差し、豊かな感受性に圧倒された。「この詩(村野四郎の『鹿』)においては、死の予感と、実際の死のあいだが、刹那のような短さだ。そこにサンドイッチのように、あきらめがはさまっている。あきらめというものが、驚くような軽さで。死の予感と死のあいだに、一瞬ふわりと浮かび上がっている。そのおごそかな軽さの感触に驚く」感傷が入り込む余地のない、一瞬のうちに遂行されるあきらめ。「鹿を追いかけて」という冒頭の一篇に私は一人居で突然死した弟のことが思い出されてならなかった。2021/05/22
タカヒロ
13
当たり前の日常の経験をもとに人間や言葉について語る小池さんの言葉は、易しいながらも、常に人間存在の本質、もっと言えば「死」に向けられている。また、言葉に対する信頼と、一方で言葉など何も表現しえないというある種の不信とを同時に語り出す文章は、言葉そのものに向き合い続ける存在であろう詩人の文章としてとても真摯に感じられた。フィクションに傾いたとあとがきで述べられてはいるが、何気ない日々を足場に果てしない深淵を見出せる氏の感性が心から羨ましい。ー「背後とはまるで、彼岸のようではないか」(「背・背なか・背後」)2023/04/02
海燕
13
20年ほど前に詩集「永遠に来ないバス」で著者を知ったが、まとまった散文を読むのは実は初めてだ。エッセイ集だが、出来事や思念を正確につづっていく言葉の選び方と文章の端正さもさることながら、感性がユニークだ。ひとつひとつの事象に対する捉え方、あるいは解釈といってもよい。詩人ならではのものだろうか。例えば最後に収録された印象的な「別離」。梅が木から落ちる瞬間を見たいと思いつつ「落ちてくる梅を見たいのではなく、梅が枝から別れるところを見たい」。切り取った日常に向かい合い、豊穣なイメージと言葉が生まれている。2022/10/17
あつ子🐈⬛
13
日経新聞で連載されていたコラムの文章が大変私好みで、これは絶対に買いだと思い購入してみました。小池作品デビューです。やっぱり素晴らしかった!まっこと直感の7割は正しいのだ。 冒頭の幻想的な『鹿を追いかけて』で早くも恋に落ち、表題作に、ただハラハラとおろおろと狼狽える私がいる。とりわけ好きなのは『きみとしろみ』(クレア・キーガンの『青い野を歩く』買ってしまいましたよ。こちらも素晴らしかった◎)その痛切な美しさに泣いてしまう。私の宝物本がまた増えました。出会いをくれた日経新聞さん、本当にありがとうございます。2022/05/11