内容説明
19世紀末から20世紀初めの戦争が続く時代に、「個性」という絶対的差異を自覚し、孤独な闘いに生きた漱石。その生涯と作品について、当時の社会的文脈にそってたどりなおし、漱石の「個人主義」の意味をナショナリズムとの関係で問いなおす。現代の視点から新しい読み方を切り開き、その魅力を鮮やかにくみあげた「再入門書」。現代文庫化に際し、大幅な増補・改訂を施した。
目次
第1章 猫と金之助
第2章 子規と漱石
第3章 ロンドンと漱石
第4章 文学と科学―『文学論』の可能性
第5章 大学屋から新聞屋へ
第6章 金力と権力
第7章 漱石の女と男
第8章 意識と無意識
第9章 個人と戦争
著者等紹介
小森陽一[コモリヨウイチ]
1953年東京生まれ。北海道大学文学部卒業。同大学大学院博士後期課程修了。成城大学助教授などを経て、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授。日本近代文学専攻。「九条の会」事務局長。その卓越した批評眼で国文学界はもとより、多方面に活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ころこ
28
従来の時代精神を仮託したテクスト読解や文献学的手法ではなく、カルチュラル・スタディーズ的な「読みなお」しになっています。政治性が強く、価値の押し付けの部分もありますが、全体を通して見事としか言いようのない本です。前半は唯物的な着眼点から従来の漱石像を解体しています。池辺三山との朝日新聞入社のやりとりに、日清戦争後の報道の均質化による「小新聞」としての生き残りを模索する姿が描かれます。平民出身の漱石と士族出身の三山の微妙な関係は、既にその頃には衰退の運命にある「大新聞」に所属していた子規との若き日の対立や後2020/11/06
まさにい
6
『吾輩は猫である』がこんなに深い読み物だったとは思わなかった。漱石が朝日新聞に入った当時の朝日新聞と日露戦争の関係、日比谷焼打ち事件に朝日新聞が影響を及ぼした関係は知らなかった。これは、商業ジャーナリズムの限界を示している。この本、只者ではないなぁ。読んで良かった。2023/06/11
ken
3
漱石の出生、漱石と正岡子規、漱石とロンドン留学、漱石と性別などなど、いろんなテーマによる論考が収められていて、作品を読む上で参考になる1冊。明治時代がどんな時代なのかを踏まえた上で、漱石の人生や作品について触れるので、作品が生まれた必然をしっかりと理解することができる。改めて、漱石という人間と、その作品の魅力について考えさせられた。2021/08/06
masasamm
2
漱石研究の第一人者小森陽一氏の漱石研究入門書。わかりやすい部分、刺激的な部分が多くあり、勉強になります。一方では読みすぎではないかと思われる部分もあります。しかしそれは私自身の読みの甘さからそう思われるのかもしれません。この本自身も、漱石も何度も読むことが要求される本です。2023/07/29
かしこ
2
金之助の金はお金の金。漱石がいかにお金に苦悩したか、その面から漱石を読み解いてました。子規と漱石の関係も、否定し合いながら、アイデンティティの危機や死の淵では求め合い、苦しさが溢れ深いです。2016/12/28
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