出版社内容情報
芥川文学を論じた評論、研究書の中で、中村真一郎の芥川論は、芥川文学への最良の道案内である。著者の芥川論の精髄を集成する。芥川文学を論じた評論、研究書の中で、中村真一郎の芥川論は、芥川文学への最良の道案内である。著者の芥川論の精髄を集成する。
内容説明
芥川龍之介の理知的で精緻なる多くの作品は、今日なお日本人を魅了し続けている。国民文学を代表する作家の一人である。著者は、終生、文学の指標として芥川龍之介の文学に向かい合った。本書は、芥川龍之介の生涯と文学の多彩な世界と、その小説のもつ可能性を多角的に追求する。芥川の内面に深く入って論じながら、一般読者に向けて読み易い文体で書かれている。傑出した芥川の研究書であり、優れた入門書でもある。
目次
1(芥川龍之介の世界)
2(芥川龍之介全集編集余話;作家の可能性と成熟との関係について―芥川の『路上』とアナトール・フランスの『赤い百合』のことなど;ある文学的系譜―芥川龍之介・堀辰雄・立原道造)
3(芥川龍之介文学紀行 早春の巡礼)
著者等紹介
中村真一郎[ナカムラシンイチロウ]
1918‐97年。作家、評論家。東大仏文科卒。西欧文学の方法を取り入れた創作の他、外国文学、日本古典への深い造詣に基づく評論、翻訳などが多数ある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐島楓
47
自死してしまった作家を論じるときには、どうしても人間論にならざるを得ないのだなと感じた。こまごまとした、重要なエピソードが紹介されており、理解の一助となった。著者が芥川に大いなる敬意を抱いているのがわかるので、安心して読める。2016/05/20
ころこ
43
Ⅰは本書の中核をなす単行本化された文章だが、思い出話なのか、エッセイなのか、批評なのか、39章に批評の作法が無いので読み辛い。芥川を意識的に対象化していないため、思い付きで書いているようにしか読めない。前近代を引きずった家族、モデルとした西洋文学、長編を書けない文学の素養、行き詰まりを想像させる自殺、というのは読まなくても分かる。それでも退屈せずに読めたのは著者の力量の故か。Ⅱの文章は芥川と堀辰雄を比較していて手法が学問的で批評だ。図らずも堀辰雄の出自に触れて理解が深まる。2023/01/05
月
10
芥川の残した作品は完成している。たとえそれが小説の文章としては適わしくないかもしれない・・とはいえ。その作品は、大正時代に生きた類い稀な才人の機知に溢れた姿を遺憾なく伝えている。同時にめったにない純粋詩人の誠実な歌声を今もなお、読者の耳にまで送ってくれている。しかし、彼の文学は袋小路だった。その完成はそこから新しい何らの展望が開けてこない。何らの可能性の芽が蔵せられていない。既に悉く開花しつくしている、という意味をも含んでいる。そして、その死のなかから蘇った作家は、僅かに堀辰雄ひとりである。 2019/01/11
モリータ
5
◆2024/10/17 予習だが途中まで。随想的分析「芥川龍之介の世界」(1954年連載)を22章まで。来年続きを読む。◆著者の主張のポイント;「重要なのは、ぼくらが自己を失うことなく、自己を実現しながら生きて行くものとして意志的に構想する一生の計画と、その計画を作り上げるに必要な感覚(12頁)」「人生を自己の支配し得るものに転換させるための中核的感覚、――内的な創造力を人生のなかに働かすための感覚(13頁)」だが、芥川の人生にはそれがなく、短篇の多作・長篇の挫折はその「奇怪な無企投性」を示している。
備忘録
1
芥川龍之介と言えばなんとなく「自殺した文豪」程度のイメージしかなかったのですが、その半生と当時の文壇の風潮、文学的な取り組みなどを本書で知ると、そりゃあまあ死にたくもなるよなあ、と。下町の苦労人なお父っつぁんが、未完成な口語体に頭を悩ませながら創作活動を続けた末、待っていたのは孤独。つらいです。2020/10/02