内容説明
樋口一葉の日記をもとに一人称で書かれた評伝。各章冒頭では死に臨んだ一葉の心境が記され過去が追憶される。幼年時代と父母兄弟のこと、萩の舎入塾と半井桃水との出会い、本郷・龍泉での暮らし、名作の執筆と鴎外・露伴らによる絶賛、そして早すぎる死。一葉は今もなお書かれなかった小説の登場人物となって生きている。
目次
第1部 私語り 樋口一葉(先史の時代;蓬生日記から;塵の中日記を経て;水の上日記にいたる)
第2部 一葉小論(性別のあるテクスト―一葉と読者;樋口一葉のモデルニテ)
著者等紹介
西川祐子[ニシカワユウコ]
1937年東京に生まれる。66年京都大学大学院文学研究科博士課程修了。フランス語フランス文学専攻。元京都文教大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ach¡
41
未来の読者よ聞こえますか、私が今、熱に喘ぎながらしぼりだす声が…死の淵で勇みたつ一葉の声が聞こえる。私語りの世界観(一葉の主観)がお見事。彼女がついに知ることのなかった後世の称賛や、近年わかった伝記的事実は注によって参照できる細やかな配慮が施される。せめて「たけくらべ」くらいは読んでおけばよかったとの後悔もあるが、それでも五千円札の人は肖像からとび出し一人の女性として目の前に蘇る。若くして亡くなった無念と共に、成就しなかった恋愛の切なさも、床に臥した孤独も、彼女の抱えた悲しさと雄々しさの陰翳がvivit!2016/06/06
gorgeanalogue
17
日記にはりめぐらされた人間関係を小説の「モデル」として扱い、しかも一人称で書かれたユニークな評伝。モデル問題は近代文学評論の常套だろうし、その意味では言い訳めく解説的な文章が理に落ちる部分もあるが、それでも面白くまた切ない。「評伝はカメラアイが対象体そのものにとりつられることがあってもよい」という、屈折した一葉の自意識をさらに屈折させる方法として必然であったのだろう。『通俗書簡文』の重要さの指摘も蒙を啓かれた。フェミニズム評論を越える論文「性別のあるテクスト」が冴えている。今年亡くなってしまったんだな。2024/10/07
cochou
4
樋口一葉を初めて意識したのはヤングジャンプ連載の「栄光なき天才たち」。その後楊逸「流転の魔女」。貧困と金、恋愛と色欲、この二つの世界を和歌をベースにした文芸の力で描く。また、文芸作品そのものが金と色の世界を浮遊する。樋口一葉は近代小説に共通するテーマを鮮やかに描ききった。2019/05/18
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
4
かの車谷長吉が市井で埋もれもがいていた頃、詩人でありのちに妻となる高橋順子に「これは凄い本です、読んでみるといい」と、下心を忍ばせクロネコヤマトのようにアパートへ宅配したのがこの一冊であったという。樋口一葉の名前は中学校の授業で習い、その後に再会を果たしたのは日本銀行券でのことだったが、教科書やお札になっちゃったりする偉人なわけだからやっぱりなんかいろいろ樋口一葉は凄くてあたりまえなんだけれど、その一葉が憑依した西川祐子さんの、恥毛を剃る剃刀のように眉間に突きつけられる斧のように肌に触れる文章がスギョイ!2015/04/22
葉菜枝
4
ありそうでなかった私語りとしての樋口一葉。参考文献の多さに驚かされた。一葉の研究本は数多くあるけれど「奇跡の14カ月」の舞台裏ともいうべき博文館との関わり、雑誌ジャーナリズムの中の一葉とその時代背景などが詳しく述べられているのが斬新に感じられた。 陶工が主人公の物語「うもれ木」を書くにあたり、作陶の技術や、輸出陶器の裏側などを、すっかり疎遠になっていたと思われた一葉の次兄の虎之助から聞いて創作したことや、あまり語られることのない一葉の姉、ふじの半生なども記載されていて興味深かった。2015/01/04