内容説明
ロシア革命がはらむ西欧中心主義の限界をいち早く見抜いていたタタール人革命家スルタンガリエフ(一八九二‐一九四〇)。彼は旧ロシア帝国のムスリム地域の脱植民地化を図ったが非業の死に斃れた。本書はイスラム世界の風土と歴史を背景にその「ムスリム民族共産主義」を詳説し、激動の現代中央アジアを理解するための礎石を提示する。
目次
序章 イスラム・社会主義・ナショナリズム
第1章 タタールとロシア
第2章 民族と革命
第3章 「異端」の社会主義
第4章 並行する権力
第5章 スルタンガリエフ主義、神話と現実
終章 預言者スルタンガリエフ
著者等紹介
山内冒之[ヤマウチマサユキ]
1947年札幌市生まれ。北海道大学文学部卒業。東京大学学術博士。カイロ大学客員助教授、ハーバード大学客員研究員などを経て東京大学教授。歴史学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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中年サラリーマン
16
ソビエト連邦成立の過程でロシア人だけでなくイスラム人の果たした役割がいかに大きいかわかる。本書はイスラム派の革命家スルタンガリエフの思想とスターリンに捨てられ処刑されるまでを綴った本。これを読むと中央アジアはソ連設立のころから民族問題(この地域の民族というのが日本人の考える民族と微妙にずれていることがまた問題をややこしくするが)の火種がありまくりだったことがよく分かる本。そして、豪腕であるにしろこれらの民族問題をねじふせていったスターリンの凄まじさをあらためて感じる本。スターリンに興味が出てきた。2014/03/10
MUNEKAZ
5
ロシア革命時、共産主義にイスラーム、タタール人ナショナリズムを接ぎ木した思想を打ち出し、粛清されたスルタンガリエフを追った一冊。長くロシア帝国内での内国植民地であった中央アジアのタタール人にとっては、ブルジョア・労働者の区別なくロシア人はみな帝国主義者であり、それに対抗するための紐帯としてイスラームも共産主義も並存できる。ロシア革命を「東」から眺めた内容で、考えさせられる部分も多かった。あと自分に火の粉が飛ぶとわかったら、容赦なく弾圧できるスターリンはやっぱり凄いし怖い。2017/03/22
tsubomi
4
2014.04.17-06.15:イスラム教徒であり社会主義者でありタタール人であることに誠実にプライドを持って生きたスルタンガリエフの、生き方と思想と彼が後世へ残した希望について詳細に書かれた本。この本を読むまで名前も知らなかった人物ですが、死後に再評価されて崇められ、ムスリム共産主義の人々にとっての伝説の人となってアルジェリアやイランの革命に影響を与えたとのこと。彼の真摯かつ情熱的な激動の人生は報われることなく敗北を喫しますが、東北人である私には共感できることばかり。カッコいい人です。2014/06/15
印度 洋一郎
4
ロシア帝国に生まれたタタール人コミュニストを中心に、知られざる中央アジアのムスリム達のロシア革命前後の去就を追った、ロシア革命裏面史とでもいう内容。中央アジアはロシア帝国の植民地であり、ムスリム達にとってロシア革命は支配者であるロシア人内部の権力闘争でしか無かった。しかし、過酷な支配からの解放を願った彼らは、共産主義と民族主義とイスラム教を融合させた独特のイデオロギーを生みだす。被支配民族から見ると、ロシア革命も全く違った様相を呈してくる。結局スターリンの弾圧によって、ムスリム達の思想は実現しなかったが。2013/07/24
ヨシモト@更新の度にナイスつけるの止めてね
4
スルタンガリエフその人の生きざま、その背景にある思想を、当時の社会情勢を明らかにしながら描く・・・という類の書物かと思っていたら、そうではなかった。レーニンからスターリンの時代にかけて、タタール人及びそれ以外のソヴィエトムスリムのおかれた状況を詳しく説明、コミュニズムと支配/被支配の関係を、それにどうすり合わせてゆけるのか、その方法を探ろうとしたスルタンガリエフは粛清されたが、彼の思想はその後のイスラーム世界に活かされている・・・といった内容。そういうわけで、お勉強にはなったが、読みこなせる読者は限られて2012/07/16
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- 和書
- 国防 新潮文庫