出版社内容情報
韓国は儒教国家と称されるが、それは事実の半面に過ぎない。歴史の基底には、道徳を重んじ上昇志向の強いエリート層とは別に、力弱い周辺的存在たちが生きる世界があり、多様な共同体や信仰、祭礼、文化が根づいている。日常と抗争のはざまにある苦楽を交えた生活が社会を動かすエネルギーを生んでいく。その道程を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かんがく
12
「朝鮮半島」ではなく、「朝鮮王朝」の民衆史がテーマ。時代的には日本の江戸〜明治にあたるので、日本との比較で理解が深まる。背景にある儒教的な一君万民と民本主義の思想、両班への上昇志向、緩やかな身分制などが繰り返し言及され、被差別民、アウトロー、女性など社会の周縁に置かれた人々の記述も多いため、多様な視点を得ることができた。最後は現代韓国との繋がりにまで話が至る。2025/01/26
tegi
2
K-POP文化の諸要素を想起させる事柄が多く驚く。ソンムル交換、センイルカフェ、アイドルの社会貢献重視あたりは相互扶助を重視する社会ならではなのかもと思えてくる。繰り返されてきたボトムアップの社会改革の動きはファンダム組織の強さも想起させる(もちろん、先の尹錫悦による戒厳令へのカウンターも)。日本による占領期の民衆精神もわずかだが描かれており、歴史上の出来事の背景を理解するためにも有益な一冊と感じた。2025/04/21
A.Sakurai
2
私は古墳時代への興味が強いので朝鮮半島の歴史は三韓時代ぐらいしか知らない.それも政治史なので李氏朝鮮の民衆史となるとさっぱり.なので岩波の広告で見かけて読んでみた.隣国なので細切れの事物は見聞きするが,その原因や成り立ちなどの解釈は「へぇ」の連続.儒教(朱子学)の考え方が良くも悪くも大きく影響し,一方で古くからの身分制や信仰が基本レイヤに残ってひねった表現型となって現れる.上昇志向と平等志向の併存.極端な女性蔑視.妓生の独特な在り方.キリスト教と巫俗の関係.植民地時代の反乱の特性などなど.2024/09/19
mirun
1
記録に残りにくく、また概念としても曖昧になりがちな民衆史を扱う点で非常に良かった。指導者中心の運動だけではなく民衆の躍動をとらえる下からの運動を考えるべきというのはどの国の社会史も必要な視点ではないか。 面白かったのは、朝鮮が儒教をヘゲモニー宗教にしつつ基底には巫俗信仰を強固に抱えている話。映画等でもキリスト教との習合を見て不思議だったが、なるほど…という納得があった。また、ヘゲモニー宗教としての儒教というのは、却って民衆に儒教倫理の内面化を強める傾向もあるようで、社会と宗教の微妙なバランスを感じる。2025/01/03
転天堂
1
韓国時代劇ドラマの補習として読了。中国から移入された儒教、とりわけ朱子学がヘゲモニーを握った支配層と社会であったが、民衆は巫俗や仏教、道教などを捨てたわけではなくそれらを信仰しながらも、支配思想をも受容し支配階級である両班にあこがれるという意識も持っていた。このあたりは明治維新をきっかけに旧士族になりたがった近代日本人にも通じるところがあるように思えるが、筆者は上昇志向とともにユートピア的な平等思考という相いれない思考が朝鮮社会の民衆に共有されていたとしている。2024/11/06