出版社内容情報
オスマン帝国崩壊と過酷な独立戦争を経て、世俗主義の国家原則をイスラム信仰と整合させる困難な道を歩み、共和国建国一〇〇年を迎えたトルコ。度重なる軍事クーデタ、議会政治の混乱、膠着するEU加盟問題、未解決のクルド問題など様々な課題に直面しつつ、新たな自画像を模索した波乱の過程をトルコ研究の第一人者が繙く
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
110
内藤先生の本を読むと、いつも、エルドアン大統領に甘いなあという感想を覚えてしまうが、こうしてトルコの現代史を詳細に辿ると、むしろ、欧米及び日本のメディアの報道が、いかに偏った印象操作であるかを実感する。欧米とロシア、ヨーロッパとアジア、キリスト教とイスラム…多くの価値観の結節点の中で、「国家・国土・国民の不可分の一体性」と「世俗国家」という確乎たる理念に沿って国家運営をするこの国の強かさが見えてくる。そういう理解の上で、イスラム主義やクルド人問題(本質はPKK問題だと思う)をウォッチしてゆきたいと思う。2023/12/20
skunk_c
65
トルコ研究の第一人者と言っていい著者が、建国100年の節目に表した概説書。地理学者らしい地域の説明から入るが、本題はやはりエルドアン政権について。特にウクライナの戦乱に対するトルコの対応をNATO諸国が批判し、日本でもほぼその孫請けのような評価があふれる中、トルコ視点から問題を考える本書のような立場は貴重だ。エルドアンがアタチュルク以来の世俗主義からイスラーム寄りへ舵を切ったのは確かだが、それを支えるトルコ民衆がヨーロッパへ熱い視線を送っているというのはある種の驚き。キプロス問題の評価も適切と思った。2023/10/11
原玉幸子
22
ムスリムの国々はイスラム教の教えを国家運営に反映させると思い込んでいましたが、トルコでは、仏の影響を受けた「世俗主義」を国家の一つの理念として思想・文化が醸成されていて、驚きました。全てを憲法化/法制化する文化というのもどうか(お上からの通達より生活実感から形成される精神性の方が尊い)と思いますし、又そもそも、政治的側面から国家を読み解くのは余り好きではないのですが、NATO(加盟済)やEU(未だ加盟認められておらず)との駆引き、逡巡、葛藤には、ストーリー性を感じます。実に面白い。(◎2023年・冬)2023/11/03
紙狸
19
2023年8月刊行。著者の内藤正典氏は、トルコ、イスラム・ヨーロッパ関係の専門家として知られる。この本はエルドアン政権のトルコに重点を置いた。PKKとの和解の試みの失敗に関連したこう書く。「強すぎるナショナリズムをイスラムのロジックで緩和し、民族間の融和を図るというイスラム主義の実験」は成功しなかった。しかし、西欧近代国家をかたちづくるナショナリズムや世俗主義に挑戦したことによって、トルコは「新たな経験値」を得た・・・。EU加盟交渉が開始早々挫折したのは、キプロスの扱いを巡るEU側の失敗が大きい。2023/11/06
崩紫サロメ
16
エルドアン政権の20年についての振り返りを中心とするもの。著者はこのところ、SNSでエルドアンのスポークスマンのような言説を繰り返しているが、それをややマイルドにまとめた内容で、ギュレン教団やPKKに対する姿勢は政権の公式見解と一致する。利下げについて「エルドアン政権は、その常識よりも、イスラム的論理の弱者救済の方をとった。かれは、中央銀行の独立という大義名分よりも、貧困層の破産を防ぐ方に重きを置いたにすぎない」とあるが、岩波新書でここまで現政権を擁護しているものは珍しい。 2023/09/11