出版社内容情報
日清・日露戦争,関東大震災,二・二六事件など,日本近代史の重大時に必ず姿をあらわす戒厳令.その発動によって,法秩序は一挙に覆り,権力がむき出しの形で民衆の前に立ちはだかる.本書は,欧米や第三世界における戒厳令の歴史と現実にふれながら,日本における戒厳令の性格・機能を明らかにする.戒厳令を通してみた新たな近代史.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
59
2016年復刻版で。原著は1978年。時代もあって著者の立場は明快で、ともすると自分の思い描いた結論に強引に持って行こうとする面もあるが、戒厳令という制度についての基礎的な見取り図を描いてもらえたという点で価値がある。またナチの政権奪取をカウンター・クーデタととらえ、その類型から2・26事件後の軍の対応を説明しようとしているが、特に石原莞爾の評価など、近年の研究の結果とはちょっと異なる印象。それより事件後の裁判を特別軍法会議に位置づけ、民間人である北一輝らに罪をなすりつけて軍を免罪したという見方は面白い。2021/12/22
Ayumi Katayama
20
戒厳令とは何であろうか。戒厳令が宣告された場合どうなるのか。裁判において控訴上告できない。集会新聞などが停止できる。郵便電報を検査できる。さらに停止もできる。動産不動産を破壊できる。家屋に立ち入り検査できる。その地から退去させることができる。その他種々あるが、基本的に人の有する権利の大部分は抑圧剥奪される。権利を保証するものではなく権利を抑圧できる法令である。2022/01/06
CTC
11
78年初版の岩波新書、私は古書入手だが、16年に限定復刻しているようだ。当時は…70年安保の記憶が新しい頃、まして周りを見渡せば翌年に全斗煥や盧泰愚のクーデターだ。本書はそのような国際情勢の中で、国内の過去事例から戒厳令の持つ「性格」(このレーベルですからね、怖さ、危うさ、という意味でしょう)を考察する。国内事例では帝国憲法14条の戒厳大権に基づく“軍事戒厳”は7例、いずれも日清日露戦時。それ以外に勅令による“行政戒厳”が日比谷焼討ち、関東大震災、2.26と3度のみ。沖縄戦ですら宣告なし、というのがミソ。2019/10/30
Shun
6
戒厳令の発動によって、法秩序にどのような影響をもたらすか、日清戦争、日露戦争、関東大震災、二・二六事件の事例を通じて解説している。軍部の恣意的なクーデターの手段としても利用されるので、国民が過去の戒厳令の事例を知ることは、国民にとって最善の方法が何かを判断する上で大切な材料となる。2019/06/30
May
5
明治の文章頻出ため辞書なくしては読めないのが難点のまっとうな著作。戒厳令誕生歴史的背景、日本での法制化の歴史をきちんと押さえた上で、宣告された戒厳令を個別に分析する。有事法制が話題なったのは少し前だが、大日本帝国において戒厳令がどのように運用されてきたかを知れば、法制化後はなかなかに恐ろしいことになりそうだと思えてくる。特に、法制化過程での議論を全く無視した陸軍の「戒厳令実行に関する大方針」やら、S8にできていた「政治的非常事変勃発に処する対策要綱」など、あってはならないものだと思う。よい読書でした。2022/08/28