出版社内容情報
動乱が続く時代のさなか、狭い谷あいに数百年生きのびた小さな荘園、若狭国太良荘。争い合う支配者やたくましく生きる百姓ら、多くの「名もしれぬ人々」の小さくも壮大な歴史を、熱をおびた筆で克明に描く。徹底した史料調査から「歴史を動かす力」に肉迫し、今なお高く評価される、著者の研究の原点。(解説=清水克行)
内容説明
動乱が続く時代のさなか、狭い谷あいに数百年生きのびた小さな荘園、若狭国太良荘。互いに争い続ける支配者たちやたくましく生きる百姓ら、多くの名もしれぬ人々が積み重ねた壮大な歴史を、熱をおびた筆で克明に描く。徹底した史料調査から、歴史を動かす力に肉迫し、今なお高く評価される、著者の研究の原点。
目次
第1章 形成期の荘園(出羽房雲厳―開発領主;菩提院行遍―荘園所有者;真行房定宴―荘園経営者)
第2章 発展期の荘園(領主名をめぐって;百姓名をめぐって;荘務権をめぐって;南北朝の動乱)
第3章 停滞期の荘園(一色氏の支配;武田氏の支配)
終章 崩壊期の荘園
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まえぞう
23
荘園公領制の提唱者である網野先生が、若狭国の太良荘について、領家たる東寺に残された古文書を読み解きながら、中世荘園の実態に迫ります。個々の出来事は煩雑に流れますが、私の興味がある職の体系の理解の助けになりました。特に農地を巡る職の体系のうち、経済的な利権部分だけが残り、任命、被任命の関係が崩れていくことが、近世の農村を用意したという話しは合点がいきました。2024/02/05
白隠禅師ファン
20
正直全体の3割も理解出来ていないけれども、若狭国太良荘を舞台に、名も知れないが、個性的な人物(百姓、預所、地頭)の数百年の争いが描かれていて、以前も言ったように「事実は小説より奇なり」をここまで感じる歴史学の書は珍しいと思った。「所職」というのが大きなテーマの一つで、その意味合いの変遷、そしてそれをめぐる争いが描かれていて、網野さんは「所職」の「職務」より「得分権」に重点を置いていることがわかる。後の網野さんの研究にもつながる、まさに彼の「原点」の書である。清水克行さんの解説もしっかり読むと、理解が深まる2025/03/26
翠埜もぐら
20
若狭の小荘園を成立から荘園としての消滅まで追った力作。なのはわかっているのですが、正直やっぱり歯が立たない荘園制。とにかく「取る」方も「取られる」方も多重構造と、同じ「職」ながら時代によって立場・内容が変化し続ける上、これら全部をひっくるめて「専制支配から脱却できなかったアジアの農民としての日本人」と言う理由を考察するという熱い内容でした。1960年代に書かれた古い本なのですが、「公領荘園制」を提唱し中世史研究を牽引した網野節の原点。しかし登場人物たちが生々しくて歴史書と言うより小説のようでした。2024/07/30
ほっちょる
3
「東寺百合文書」記載の若狭国太良荘と関わる人々の姿から、荘園の実態を生き生きと描き出した労作。歴史書というより、物語風の語り口なので、著者の熱量が伝わってきた。荘園の概説書を片手にし、清水克行氏の解説を読んで、何となく理解したところでは、本書では、再三登場する「諸職」がキーワードとなりそうだ。中世の土地支配は「職の体系」が基本で、著者の立場として、中世においては、惣村であっても、完全に自立的な共同体は存在しなかったようだ。単なる?記録から、このような著作にまで膨らますことができる、文章のもつ魅力を感じた。2025/05/03
Fumoh
3
若狭の国、太良荘(たらのしょう)が鎌倉から戦国にかけて歩んだ歴史を、非常に細かく紐解いていく異例の書。中世の荘園の様子を、出納帳やら権利の移り行きやらまで、非常に細かく見ていく。中世の領地経営の知識が相当ないと、読み解くことは難しいが、著者の描く太良荘の出来事は、まるで壮大な大河ドラマのように、波乱万丈としている。名主職の取り合い、農民の自由や夢、時の政権による混乱の影響など、さまざまなドラマがあった。その一つ一つをわたしの知識不足のゆえに追っていくことが困難なのが口惜しいが、いずれ再読したい一冊である。2023/12/30