出版社内容情報
「貴君は年老いた、しかし永遠に若くあり続けるインドという国を担ういちばん新しい顔なのです」──ついに露顕した出生の秘密。禁断の愛を抱えつつ、〈清浄〉の国との境をさまよう〈真夜中の子供〉サリームは…。稀代のストーリーテラーが絢爛たる語りで紡ぎだす、あまりに魅惑的な物語。(解説=小沢自然)
内容説明
「貴君は年老いた、しかし永遠に若くあり続けるインドという国を担ういちばん新しい顔なのです」―ついに露顕した出生の秘密。禁断の愛を抱えつつ、“清浄”の国との境をさまよう“真夜中の子供”サリームは…。稀代のストーリーテラーが絢爛たる語りで紡ぎだす、あまりに魅惑的な物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
82
サリームの祖父の代から語り始められる物語は、インド独立への激動の時代でもある。激動の時代の中でも特別な日に生まれた子供は、その特別の日を象徴する特別な子供なのだ。だが、新たな特別の日は、それまでの特別な子供たちの終焉の合図となる。インディラ・ガンディーが発令した非常事態令は、新たな真夜中の子供たちの誕生を意味する。サリームは、彼らにすべてをゆだね、身を引くしかない。マジック・リアリズムという手法は、印象的でインパクトがあるが、ついていくのに体力が要る。2020/10/19
藤月はな(灯れ松明の火)
81
語り手のサリームは人の姦通を知らせる、人の死に憐れみや悼みを抱かない等、自己中で独善的な所が鼻につく。そして彼は血が繋がっていない事から妹、ジャミラ・シンガー(ブラスモンキー)を愛するようになる。しかし、彼は血が繋がっていないと分かった時点でも「妹はかつて得ていた自分の幸福を受けるようになった」というのだ。この下に見る感情から愛へと変化するのが、納得がいかなかった。だから私としてはジャミラはパキスタンへの国政をも影響を与える歌手として有名になったからこそ、サリームは愛したのではないかと邪推してしまうのだ。2020/09/16
syaori
67
下巻では、新しいインドの「自由」という夢が、印パ戦争を経てインディラ・ガンディー首相の非常事態宣言(公民権停止、検閲強化)で終るまでが、その夢を象徴する、可能性に満ちていた真夜中の子供たちの運命と絡めて語られます。我々とは「壊されるべくなされた約束」だったとサリームは言う。歴史とはある意味その壊された約束の集積だと思うのですが、だからこそ彼はその生きた証しである半生を語らねばならなかったのだと思います。それにより私たちが「踏みつけ」てきた夢の一つに形を「意味を―与え」、その「愛の祈り」を露わにするために。2022/07/14
ころこ
42
サリームの身の上に起こった取り違えがインドとパキスタンの分裂に重ねられているのは、彼がパキスタンに逃げることからも明らかです。印パのカシミールをめぐる紛争と同時に父アフマドが卒中で倒れるなど、大きな物語が身体性と共に描かれます。しかし、それらは単に近代国家を肯定するのではなく、取り違えはアイデンティティの、記憶喪失は歴史の、生殖能力の喪失は民族意識のオルタナティヴな隠喩であり、大きな物語を脱臼させることでそこに生きている人々には新たな希望を、もはや大きな物語には生きていない我々には共感を与えてくれます。2022/01/25
そふぃあ
27
インド独立の日の真夜中に生まれた主人公は、自らをインドの双子の片割れ=運命共同体として象徴的に描く。同じ夜に生まれた国内の子供たちはそれぞれ超能力を持っており、主人公と共にMCC(真夜中の子供たち会議)を創るが、彼らを待ち受ける運命とは、、饒舌な語りとマジックリアリズムは相性が良く、また、フィクションを通して現実の恐ろしい出来事を告発する役割があることを再発見した。この世界ではときに、フィクションより荒唐無稽だったり恐ろしさのあまり信じがたい事が起こるが、文学はそれらを受け入れる手助けになる。2022/10/04