出版社内容情報
家庭貧しく代用教員として人生を歩み始めた文学青年・清三は、田舎教師として埋没しゆく煩悶を抱える。日露戦争の勝利に湧くなか病没した実在の青年の日記を元に、北関東の風物を織り交ぜ描いた、自然主義文学の代表的作品。改版。(解説=前田晁、尾形明子)
内容説明
文学を志しながらも、家庭貧しく代用教員として人生を歩み始めた青年清三。同級生の学生生活や恋の話は遠い世界となり、田舎教師として埋没しゆく煩悶を日記に記す。世間が日露戦争の勝利に沸くなか病没した実在の青年の日記を元に、北関東の風物を織り交ぜ描く、自然主義文学の代表的作品。改版。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とびを
6
タイトル見て、自分と重なる部分があるだろうと思って読み始めたけど、思ったより西だった。2021/01/14
坂津
4
田山花袋の代表作がやっと岩波文庫で改めて出版された。『東京の三十年』も重版されており、岩波書店内で花袋が僅かに盛り返しているのかもしれない。本文や前田兆の解説については以前の感想で触れたので、ここでは文学研究者の尾形明子の解説を取り上げたい。花袋についての著作を執筆しているだけあり、『田舎教師』の主人公のモデルとなった小林秀三の日記と実際の物語との相違点がまとめられており、本作をより親しむ際の参考になる。解説の最後では小林が下宿し、そして眠る建福寺を探訪している。これは「聖地巡礼」の一つの在り方だろう。2018/11/22
徳島の迷人
3
ある青年の日記を元にした小説。明治になって強くなった立身出世主義がもたらした煩悶を描く。現代でも地方で暮らす人なら考えたことがあるだろう、半端にある選択権、疎外感、焦燥感、もったいなさ、高尚な理想を追い求めようとしても他者からは何の役にも立たないと思われること。田舎の学問より京の昼寝か。恋も夢も報われず死んで忘れられていく清三のような人間は今も昔もいるだろう。戦地で死んでいく兵士との対比にもなっている。2023/05/06
Kotaro Nagai
3
本日読了。明治42年の刊行。舞台は明治30年代中頃の埼玉県行田。当時は行田から熊谷までは乗合馬車で往来する時代。そこの尋常小学校の代用教員となった青年が、文学を志すも貧しさと病のために挫折し死ぬまでを丁寧な筆致で描かれる。この作品には実在のモデルがあり、その青年が残した日記がもとになっているが、花袋はそこに当時の埼玉の美しい自然の描写や細やかな心情が丁寧な筆致で描かれる。今からは遠くなった明治の時代ですが、主人公の若者の心情は現代でも十分推し量れる。ラストは東武鉄道が開通したところで終わるのが印象的。2020/11/05
ことうみ
3
難しそうだからと敬遠して直ぐに読まなかったことが悔やまれる傑作。作者の自叙伝だと疑わなかったくらい目の前にあるようなリアルさで一気にのめり込んだ。作者自身も「一青年の魂を墓の下から呼起して取り扱ったような気がした」と言っていたが納得。埼玉の北部の羽生や行田や熊谷の郷土がありありと描かれている。むしろ今とそんなに変わらないかも? モデルは小林秀三(1884-1904)。東京で学びたい、出世したい、自分はこんな田舎で終わる人間じゃないと願いながらも悶々と日々を過ごし、最後は肺結核で死亡した事実に基づく物語。2018/11/18