出版社内容情報
人口が増大し,都市開発がすすむ19世紀のパリでは,石工の需要が飛躍的に増加し,石工は出稼労働者の代表的存在となった.フランス中央部リムーザン地方の出稼農民の子として生まれ,14歳でパリに出たマルタン・ナド(1815-98)の回想は,この時期の移民労働者自身のものとしては唯一の貴重な記録である.本邦初訳.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
17
10代の初めから家計のためにパリに出稼ぎに行く少年のために、文盲の父が最低限のこととして読み書きそろばんの初歩を習わせたのは正しい選択だった。オック語圏のリムーザン出身ゆえの差別、少年には過酷すぎる労働環境、2度の怪我など苦難の中でも希望を捨てず、7月革命を目撃して共和政の理想に目覚め、ストライキなどを通じて労働者の権利を訴え、やがて政治家となる生涯を可能にした識字。労働者の世紀である19世紀を当事者の視線で描く貴重な証言。ろくに教育を受けず重労働に従事、労働のあとの飲酒も当然だった少年時代の回想が迫真的2016/08/17
ラウリスタ~
4
19世紀フランスはゾラの描くように階級闘争の時代でもあった。民衆がついに力を持つようになる。作者のある石工は教育によって力を持つようになる。教育の重要性をしみじみと感じる。言われてみればこの時代の文学者は大概ある程度の教育を受けている、逆に言えば家族みながまだ文盲で自分だけ教育を受けることになり結果、議員にまでなった人による記録は意味深い。とはいえ、前半の石工仕事の描写は面白いものの、後半は微妙。構成がはっきりしない、時系列じゃないなど読みにくい。2011/04/13
qoop
3
石工としての上達を目指しながら喧嘩や乱痴気騒ぎに明け暮れ、教育を通じて職業的な地位向上を目指し、社会運動に身を投じる著者。変転の半生に見えつつも、ガリア人という出自/郷土愛/職業集団への同族意識が諸要素を強力に結びつけている。石工としての生活と政治活動の部分では大きく趣が異なり多少戸惑う。原書の前半部分のみ訳出とのことだが不満はない。それにしても、パリの格闘技というとサバットが思い浮かぶが、ショソンも伝わっていたのか。水夫の格闘技とされるショソンを海のないリムーザン地域出身の著者が習ったというのは面白い。2014/12/16
ビタミン
0
★★★★☆2009/01/12