出版社内容情報
明治九年から二十六年間,東大医学部のお雇い教師であったドイツ人医師ベルツ(一八四九‐一九一三)は皇室や伊藤博文・井上馨ら多くの高官をはじめとしてあらゆる階層の人々と接した.それがこの日記を明治裏面史の興味深い記録としているが,何よりも我々をうつのは日本を愛してやまなかったベルツその人の姿である. (解説 酒井シヅ)
内容説明
ベルツの交際は皇室や伊藤博文・井上馨ら多くの高官をはじめとしてあらゆる階層の人々に及んだ。それがこの日記を明治裏面史の興味深い記録としているが、ここにはまた内外情勢に対するかれらの並々ならぬ洞察力がうかがわれる。だが何よりも我々をうつのは日本を愛してやまなかったベルツその人の姿である。
目次
第1編 日露開戦
第2編 ウラジオ艦隊の活躍
第3編 遼陽の会戦まで
第4編 沙河の会戦まで
第5編 旅順の陥落まで
第6編 奉天の会戦まで
第7編 対馬の海戦まで
第8編 帰国
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
98
何度目かの再読でいつ読んでも明治の裏面史ということで、お雇い外国人が見た日本の素顔が描かれています。一般の歴史書にあるような忖度した感じもなく、感じたままを書かれていてこの下巻では日露戦争が一つの流れとなっています。また自分の生れであるドイツ人として感じたことなどもあり最後はそのドイツへ帰国するということでしめられています。2023/10/11
lily
93
1904年から2年間をメインに1913年までの記録。自身のロシアのスパイ嫌疑。日露戦争第1年度戦費5億円、7割の増税。奈良は農家の理想郷、奈良公園は日本で1番美しい公園。軍人の暴行、25日間の禁固、退役、官位剥奪。ドイツ人は骨の髄までの自惚れ。麗しき華厳は自殺者メッカに。東京の全食料2割から6割の騰貴。脚気病は米オンリーのせいなのに。戦争報道無し。新聞に真実無し。草津温泉の効力の凄み。東京在留外国人1866人。アメリカ人の際限無しの享楽癖。伊藤博文の酒と女と煙草癖。歴史は個人史の延長線の集合から。2021/03/25
本の蟲
10
下巻は日露戦争の一年間になるが、ベルツは日光、沼津、草津、箱根や奈良とあちこちに出歩いている。しかし東京に戻れば、ほとんど毎日、様々な立場の人と話しているので、話題は戦争のことになりがち。銃後の日本人の様子と国内の新聞。閣僚から聞く方針と実情に相談事。各国大使と諸外国の新聞から国際情勢。ロシア側にいた観戦武官の裏話など。あらゆる情報がベルツに流れ込み、火の車になっている日本財政を気にかけ、各国の行動と思惑まで見抜いている。母国ドイツの外交下手で、下手をすればロシア以上に憎まれていると嘆くことしかり(続2021/10/07
馬咲
7
日露戦争を巡る日本内外の世相についての記述がメイン。合間に日本の各景勝地の自然と文化への深い理解と愛情を示す表現が光る。要人との会話や各国の報道を通して国際政治の建前と本音を、何よりドイツの国際的孤立をベルツは読みとっていく。ドイツの状況は感情的な皇帝の放言による自業自得と断じつつ、それに乗じて日本人の反独感情を愛撫し日英の同調を演出するイギリスの情報戦や、日本の新聞の盲目的な英米賛美に対する批判も忘れない。日本を愛好し、自らその発展に大いに貢献したドイツ人という彼独自の立場故の複雑な思いが伝わってきた。2023/05/19
KAZOO
6
この本は明治時代のお雇い外国人で、ベルツという医学関係の講義を東京帝国大学で行っていた人物のその当時の日本の世相事情を事細かに記してあります。当時の有名な政治家などがよく出てきており、しかも脚色されておらず記述されているので、明治の初期の資料としては第一級のものだと思っています。何回も読んでいますが、いつも新しい何かを気づかせてくれます。北森鴻さんの明治時代の小説にも出てきます。2012/03/22