出版社内容情報
一八九一(明治二四)年五月一一日,滋賀県大津で折から来遊中のロシア皇太子が警備の巡査津田三蔵に襲撃されるという事件が突発した.著者(一八八〇―一九四六)は,豊富な資料を駆使して,この事件によって照らし出された明治国家の権力構造を鮮やかに描き出してゆく.司法権の独立をめぐる有名な大津事件を総合的に叙述した唯一の書.
内容説明
1891年5月11日、滋賀県大津で折から来遊中のロシア皇太子が警備の巡査津田三蔵に襲撃されるという事件が突発した。著者は、豊富な資料を駆使して、この事件によって照らし出された明治国家の権力構造を鮮やかに描き出してゆく。司法権の独立をめぐる有名な大津事件を総合的に叙述した唯一の書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
7
当時のVIPを傷つけた(殺人未遂)というのは、現代の北方領土問題を考えても、この事件が暗い影を落としているということが言えるのではないか。理由は何であれ、日本人がロシアでそのような目にあってどう思うか。ロシア国民もそのように思ったに違いない。歴史への想像力はそういうことではないのか。その後裁判沙汰となり、三蔵が訊問を受けている(132頁~)。弁解の余地はないのではないか。その後検事との問答が続く。スパイだと勘違いしたのか? 判決は、無期懲役とのことである。今日の外交を考える上で示唆的な判決事例ではないか。2013/03/27
juunty
3
明治政府を騒然とさせた滋賀県大津でのニコライ二世襲撃事件についての顛末記。古風な文体が読みにくいかも知れないが、当時の様子をそのまま表現する資料集になっている。ニコライ二世の襲撃直後の様子についても描かれており、終始冷静、日本国に対する理解なども示されている。興味深いのはニコライ二世襲撃にまつわる物品を縁起物として欲しがる人が詰めかけたこと。ニコライ二世が止血をした手ぬぐい、座った座布団、避難した商店の在庫、当日の洗濯物など、が飛ぶように売れたとのこと。日露の関係悪化を叫ぶデマが飛び交う様子も今日同様。2021/04/25
今野ぽた
2
ドタバタする新政府の滑稽さと、児島惟謙のド正論が愉快だった2014/12/22
悸村成一
1
読了12冊め。以前或る方から、事件は京都の鴨川べりで起こったという異伝を聞いたが、検証できない。「禁制の霊地」(p.238)という浮説が幾らか気に掛かる。2020/03/16
月光密造者
1
当時の法曹界に「反」藩閥の流れがあるとは知らなかった。史料としても価値が高い。ロシア側にも迫る取材の広範さ。津田三蔵への同情と、関東大震災後の甘粕大尉への同情に同質を感じ、後の大戦に繋がる極端な愛国主義に警鐘を鳴らす慧眼。やはり、尖閣沖の中国船籍の事件と比べてしまい、暗憺たる気持ちになる。2011/11/08