出版社内容情報
ぼくの叔父さんテッラルバのメダルド子爵は、トルコ軍の大砲の前に、刀を抜いて立ちはだかり、左右まっぷたつに吹き飛ばされた。奇跡的に助かった子爵の右半身と左半身はそれぞれ極端な〈悪〉と〈善〉となって故郷に帰り、幸せに暮らす人びとの生活をひっくりかえす――。イタリアの国民的作家カルヴィーノによる、傑作メルヘン。
内容説明
ぼくの叔父さんテッラルバのメダルド子爵は、トルコ軍の大砲の前に、剣を抜いて立ちはだかり、左右まっぷたつに吹き飛ばされた。奇跡的に助かった子爵の右半身と左半身はそれぞれ極端な“悪”と“善”となって故郷に帰り、幸せに暮らす人びとの生活をひっくりかえす―。イタリアの国民的作家カルヴィーノによる、傑作メルヘン。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
231
砲撃のショックで、善と悪の半身に分けられてしまった男と、それを取り巻く村の大混乱を描く。悪が良くないことは言うまでもないが、善は時として悪よりたちが悪いことが示される。善半身と悪半身はそれぞれ愚行を繰り返すのだが。本書を読んでまず思ったのが、社会主義の善と資本主義の悪。資本主義は強いものが弱いものを従えるという、目を背けたい一面が原動力となって動く。社会主義は、人こそが尊いという善意としか思えない心が原動力となって動く。それぞれが何を生み出したか、善悪だけで割り切るのは難しい。2020/06/15
のっち♬
148
戦争で大砲に撃たれて縦にまっぷたつになった子爵。先に悪の右半身が、後に善の左半身が帰郷し、社会的混乱を巻き起こす。著者の文体は素朴でユーモアと機知に富んだ表現が多く、豊かな寓意の盛り込まれた"大人のメルヘン"として読者を楽しませる。これは冒頭の血腥い戦場描写があるからこそ引き立つが冷戦下で盛り込まれたテーマ性はメルヘンに止まらない。善と悪が対立する個人的次元と善にしろ悪にしろ節度を喪失した押し付けの危険性を突いた社会的次元を巧妙に統合していて普遍的な魅力を放っている。特に決闘シーンに込められた皮肉は痛烈。2024/08/17
buchipanda3
122
イタリアの奇妙で寓話的な物語。題名からしておかしな感じ。この題名の訳し方が絶妙で、中身のシニカルさとユーモラスさを上手い具合に表現していると思った。子爵は戦争で体が右半分と左半分の二人に分かれ、一方が悪のみ、もう一方が善のみの心を持つ人物に。善のみというのもバランスが悪く村人たちは翻弄されてしまう。世の不条理さが単純化されて描かれているが、その背景にある人間の複雑さがむしろ強調されて浮かび上がる。いつの時代でも分断が形成されてしまう意味を問う一面も。それらをおかしな物語でさらりと描いていることに感服した。2020/09/03
nuit@積読消化中
113
善と悪がまっぷたつに!…色々考えさせられるテーマの内容でした。そして巻末の訳者による解説にてカルヴィーノの背景を知り、なるほどと本文を読み返してみたり。ページ数で言えばこんな薄い物語の中に深い意味が盛り込まれております。2018/10/03
マエダ
99
’しばらくまえから、自分は縦にまっぷたつにされた人間のことを考えていた’これが作家の感性と言わんばかりで素晴らしい。まっぷたつにされた子爵の善半と悪半、訳もセンスが良くよみやすい。2017/10/18